ファイナンス 2020年8月号 No.657
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パートナーシップや広報活動の拡充、及び、こうした活動を支える、人事、財務、法務、ITといった部門の強化も引き続き図っていく必要があろう。また、CMIMとAMROの関係の整理も検討課題となりうる。現在、AMROはCMIMの事実上の事務局を務めている一方で、危機時に実際に資金を動かすの*6) 実際の局面においてCMIM資金だけで資金要請国の国際収支又は短期流動性不足に対応できない場合には、IMFやそのほかのドナーとの協調融資が検討されることが想定される。はCMIMであり、両者が分断されている状況にある<表1>。<表2>ではCMIMを他のRFAとを比較しているが、CMIMは他のRFAと比べ、(1)設立根拠が商業契約であること、(2)法人格がないこと、(3)資金構造が各国からの外貨準備からのコミットメントであり自前資金がない、という点で特異な構造となっている。ASEAN+3地域における地域金融セーフティネットとしてのCMIMの基盤強化の観点からは、今後、CMIMを国際協定化すること、CMIMを法人格と自己資本を持たせる形に進化させAMROが正式に事務局機能を果たすことなどが検討に値するだろう。さらに、<表3>では、公表情報に基づき、危機対応目的の安定ファシリティ(CMIM-SF)に加え、2014年に導入された危機予防目的の危機予防ライン(CMIM-PL)、2つのファシリティの特徴をまとめている。CMIMの使い勝手を更に向上させていくための方策について、個人的な見解を述べれば、まず、CMIMでは、個別国の引出可能額には、契約書上定められた上限があり、それを上回ってドル資金を引き出すことは認められていない*6が、現実の危機への対表2 主な地域金融取極(RFA)の比較チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)欧州安定メカニズム(ESM)ラテン・アメリカ準備基金(FLAR)アラブ通貨基金(AMF)BRICS緊急準備アレンジメント(BRICS CRA)ユーラシア安定開発基金(EFSD)メンバー国ASEANおよび日中韓13か国(香港を含む)独・仏などユーロゾーン加入19か国中南米8か国*1中東およびアフリカ22か国*2中国、ロシア、インド、ブラジル、南アアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン設立年2000年(2010年に契約一本化)2012年(前身のEFSF及びEFSMは2010年に設立)1991年(前身は1978年に設立)1976年2014年2009年(2015年に現在の名称に改称)目的潜在的及び現実の短期流動性困難及び/又は国際収支困難に対し米ドルによる流動性支援実施潜在的又は現実に資金繰り(nancing)に問題を抱えるメンバー国に対し、その安定のための支援実施-国際収支失調の回復-外貨準備の投資条件の改善-政策協調- 国際収支失調の回復- 対外支払制約の除去- 地域の金融市場及び貿易の促進- 地域協力に係る政策等の策定-経済政策助言潜在的又は現実の短期国際収支困難に対し支援実施- 国際金融危機(GFC)からの克服- メンバー国の経済及び金融安定の確保- メンバー国経済の更なる統合の促進設立根拠商業契約国際条約国際条約国際条約国際条約国際条約法人格法人格なし(スワップ取極)国際公法上の法人国際公法上の法人国際公法上の法人法人格なし(スワップ取極)法人格なし(ユーラシア開発銀行が管理運営)資金規模2,400億米ドル授権資本 ;約7,000億ユーロ払込資本 ;約805億ユーロ払込資本 ;約30億米ドル授権資本 ;約50億米ドル払込資本 ;約36億米ドル1,000億米ドル85億米ドル資金構造各国の外貨準備からのコミットメント資本及び市場借入資本及び市場借入資本及び市場借入各国の外貨準備からのコミットメント財政拠出*1ボリビア、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ*2ヨルダン、UAE、バーレーン、チュニジア、アルジェリア、ジブチ、サウジ、スーダン、シリア、ソマリア、イラク、オマーン、パレスチナ、カタール、コモロ連合、クゥエート、レバノン、リビア、エジプト、モロッコ、モーリタニア、イエメン表1 AMROとCMIMの関係機関名ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)機関属性2011年(シンガポール法人)2016年(国際機関)2000年(二国間契約ネットワーク)2010年(一本の多国間契約)メンバー日本、中国、香港、韓国、ASEAN+3日本、中国、香港、韓国、ASEAN+3専門職員数61(2019年末定員)-意思決定機関執行委員会(27名)(ASEAN+3財務大臣・中銀総裁代理会合*)ASEAN+3財務大臣・中銀総裁代理会合*(27名)資本金・拠出金等約19百万ドル(2019年予算執行額)最大2,400億ドル(実施承認後、各国外貨準備より拠出)主な業務・サーベイランス:年次協議等を通じて、加盟国・地域の経済を監視。・地域金融取極の実施支援: ASEAN+3の要請に基づき、CMIMの実施を支援。・技術支援・通貨スワップ:流動性危機や国際収支危機に直面した加盟国・地域への通貨スワップ及び予防的交換枠の設定。*年2回開催。54 ファイナンス 2020 Aug.連載海外 ウォッチャー

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