ファイナンス 2020年8月号 No.657
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の1997年11月に開催されたASEAN首脳会合に、日中韓の首脳が招かれたことに始まる。特に、我々が大きく関与するASEAN+3財務プロセスは、1999年に始まり、近年では、通例、財務大臣・中央銀行総裁会合*4がアジア開発銀行年次総会の際に開催されるほか、次官級会議が年二回、そのほか事務方の会合が随時開催され、域内の金融セーフティネット(チェンマイ・イニシアティブ)の構築、域内サーベイランスの強化(AMRO)、及び域内債券市場の育成など*5が検討されてきた。繰り返しになるが、AMROは、大臣総裁会合や次官級会議に対して、地域経済、及び加盟国経済の動向についてのサーベイランスノートを提出し、これらの会議における経済情勢の議論に貢献しているほか、CMIMの事実上の事務局として、CMIM関連の議論を支えている。こうしたASEAN+3会議に係る調整の他、私のグループでは、この1年、2016年に策定された中期活動計画“Medium-term Implementation Plan(MTIP)”の中期見直しを行い、今後5年間のAMROの活動計画並びに必要予算の目安を新たに提示した。MTIPでは、AMROのこれまでの活動に係るメンバー国からのフィードバックやAMROを取り巻く状況の変化、更には財務大臣・中銀総裁会議共同ステートメントで示されたAMROの戦略的方向性等を踏まえ、AMROが地域の”かかりつけ医(Family Doctor)“となるために、サーベイランス機能の強化や人員の拡充など、AMROの諸活動の更なる強化に向けた提案を行った。同提案は、昨年末に中国・厦門で開催された次官級会議で承認されている。写真:2019年12月に中国・厦門で開催されたASEAN+3次官級会議の合間で、上司・同僚と撮影*4) ASEAN+3財務大臣会合は、1999年4月に第1回目の会合がマニラで開催された。その後も例年1回のペースで継続し、昨年5月にフィジーで開催された会合で22回目を迎えている(2012年の第15回会合からは中央銀行総裁も参加)。*5) 昨年5月のフィジー会合では、こうした議題に加え、域内経済成長・統合の促進を目的とする新イニシアティブの検討が合意されており、5つの潜在的分野((1)現地通貨利用促進、(2)インフラ金融促進、(3)CMIMとは異なる目的の基金の新設、(4)災害耐性強化、(5)技術革新対応)が列挙されている。そのほか、私のグループでは、年次活動計画(Annual Work Program)の策定、年次報告書(Annual Report)やメンバーからのフィードバックを踏まえたAMROの活動評価報告書の作成、AMRO諮問委員会(Advisory Panel)の開催、他の国際機関やRFAとの共同イベントの開催やMOUの締結などの各種パートナーシップの深化、他の国際機関等との文書交換の実施、ウェブページやSNSを通じた広報活動の実施やメディアからの問い合わせへの対応などを担っている。3.今後の課題さて、ここからは、AMRO職員としての立場を離れ、一個人の立場で、今後のASEAN+3における国際金融協力の方向性について若干考察してみたい。まず、AMRO単体で見れば、サーベイランスや政策提言におけるAMROの能力強化が引き続きの課題として挙げられる。2019年末の定員61名のうち、その約半数がマクロ経済・金融に係るサーベイランス担当のエコノミストであるが、同等の業務を行っている他の国際機関と比べると、極端に人員が少ない状況にある。現状、エコノミスト一人当たり3か国(地域)を担当しているが、世界経済に占めるASEAN+3地域のプレゼンスや、域内経済の相互連関性及びその複雑さを踏まえると、個々のエコノミストの能力向上に加えて、人員強化に取り組み、マクロ経済サーベイランスの質を高め、タイムリーな政策助言につなげていく必要があろう。前述のMTIPではこれを含むサーベイランス機能強化の方向性を打ち出している。また、CMIMの事務局機能を果たす観点からは、アジア通貨危機以降の経済発展及び良好な経済政策フレームワークを反映し、今後の危機時には貸出国になる可能性の高い主要ASEAN当局の意見を十分にくみ取れるような人員を確保し、CMIM関連の政策立案に反映させていく必要もあろう。さらに、知名度やプレゼンスの向上が優秀な人材確保につながることも踏まえ、 ファイナンス 2020 Aug.53海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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