ファイナンス 2020年8月号 No.657
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0.はじめに私は、昨年6月から、シンガポール所在の国際機関であるASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO:Asean+3 Macroeconomic Research Oce)に勤務している。AMROでは、通貨危機を防止する観点からASEAN各国及び日中韓の経済状況を常時モニターするとともに、万が一ASEAN+3各国が危機に陥った場合には加盟国間で外貨を融通し合うスワップ網であるチェンマイ・イニシアティブの実施を支援することなどを任務としている。本稿では、AMROの設立背景*1や活動内容などを説明するとともに、ASEAN+3における地域金融協力の今後について考察してみたい。なお、本稿に示された意見はすべて筆者個人に属し、筆者の所属する組織としての見解を示すものではない。1.AMRO概況AMROは、2009年2月のASEAN+3財務大臣会合で「独立した地域サーベイランス・ユニットを設立する」旨が合意され、2011年にまずはシンガポールの非営利法人として業務を開始し、その後2016年2月にAMRO設立協定が発効し国際機関となった。創立時にはわずか4名だった人員も、2019年末現在で61名まで増え、業容も徐々に深化している。2016年に定められたAMROの「Strategic Direction」では、AMROは「マクロ経済に関するサーベイランス(経済状況の監視)と地域金融取極*1) なお、AMRO設立の経緯等については、2012年から2016年までAMRO所長を務めた根本洋一氏が2017年1月から2018年8月にかけて計16編を本誌に寄稿されており、詳しい情報についてはそちらを参照されたい。*2) チェンマイ・イニシアティブのこと。(Regional Financial Arrangement)*2の実施に係る支援を通じて、地域のマクロ経済及び金融の安定に貢献すること」をミッションとし、「ASEAN+3地域のメンバーへの信頼される政策アドバイザーとして、独立し、信頼され、専門性のある地域機関たる」とのビジョンを掲げている。また、「マクロ経済に係るサーベイランスの実施」、「チェンマイ・イニシアティブの実施支援」及び「メンバーに対する技術支援の提供」の3つの業務がAMROのコアな業務とされている。●マクロ経済に係るサーベイランスの実施AMROは、マクロ経済に係るサーベイランスを大きな任務の1つとしている。個別国に対しては、ASEAN+3のメンバーそれぞれに対し、年次でサーベイランスミッションを派遣し、各国経済のアセスメント及び政策提言を行っている。その成果は、Annual Consultation Report として、AMROウェブサイト上で公表している。また、ASEAN+3地域全体のサーベイランスも実施している。2017年以降、AMROのフラッグシップレポートとしてASEAN+3 Regional Economic Outlookを年一回公表しているほか、同じく2017年以降、毎年11月頃に開催されるASEAN+3首脳会議に対して域内経済情勢の分析や政策提言を行う報告書を提出している。そのほかにも、その時々のテーマに応じてワーキングペーパーやアナリティカルノートなどを作成し、随時公表している。FOREIGN WATCHER海外ウォッチャーASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)と地域金融協力の今後AMRO戦略調整グループヘッド 冨永 剛晴 ファイナンス 2020 Aug.51連載海外 ウォッチャー

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