ファイナンス 2020年8月号 No.657
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評者渡部 晶丸山 淳一 著今につながる日本史中央公論新社 2020年5月 定価 本体1,600円+税本書は、著者の丸山淳一氏が、2018年1月から読売オンライン(現・読売新聞オンライン)で連載したコラム「深読み」、「今につながる日本史」の内容を加筆修正し、書き下ろしのコラムを加えてまとめた1冊。読売新聞オンラインの連載は、現在も月2回のペースで継続中である。「はじめに」で詳述されているが、「今を知るために歴史を学ぶ、とは遠回りにみえるが、時間軸を延ばすことで、ぐっと視野を広げることができる」とし、「深層NEWS」で取り上げたテーマについて、時間軸を延ばして調べたことを連載してきたという。丸山氏は、本年6月から読売新聞調査本部総務。調査研究本部は、読売新聞の社内シンクタンクとして1982年に創設された。直前は、読売新聞東京本社編集委員である。1986年に入社、甲府支局、経済部、論説委員、経済部長を歴任。経済部では、いわゆる財研キャップも務めた。熊本県民テレビ報道局長を経て、2017年7月から2019年9月までBS日テレ「深層NEWS」キャスターとしても活躍している。本書の構成は、「はじめに」のあと、政治、経済、外交・安保、事件、災害、スポーツ、暮らし、美術、令和改元というテーマ別にコラムが配され、インタビュー(作家堂場瞬一氏、立命館アジア太平洋大学学長出口治明氏)、「おわりに」となっている。いわゆる森友問題など財務省が関係する事案についても取り上げられている。以下、いくつか紹介したい。「経済」では、「裏切り者を人気者に変えた『光秀の大減税』」が時節柄目を引く。1582年に、明智光秀が天下を取り、窮余の人気取りで、洛中の町民の地子銭(現在の固定資産税に相当)を永久に免除するとの布告をした。その後歴代政権はやめることができず、明治の地租改正まで150年以上も「大減税」が存続したことの功罪を冷静に考察する。「外交・安保」では、「大本営発表はなぜ『ウソの宣伝』に成り果てたか」で、話題作「古関裕而の昭和史国民を背負った作曲家」(文春新書)の著者として知られる辻田真佐憲氏の好著「大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争」(幻冬舎新書)を踏まえ、辻田氏へのインタビューから、「空気を読むことがすべて悪いわけではないが、日本には他国以上に空気を読む文化がある。だからこそ、特に公権力を持つ組織では、他国以上に権力集中に歯止めを設ける仕組みが必要ではないか」との指摘を引き出す。また、「日韓対立の底流にある『もはや』の三文字」では、韓国側の主張の論理をわかりやすく示していて、類似の記事をほぼみない瞠目すべきものとなっている。加えて、「災害」についてもかなり取り上げられている。丸山氏は、経済部長時代に東日本大震災、熊本県民テレビ報道局長時代に熊本地震に遭遇し、その災害報道の最前線での経験が活かされる。「天災は忘れないだけでは不十分」との指摘は重要だ。「令和改元」については、「大化」からの元号の一覧表が付され、明治以降の「一世一元は、時間に関する日本人の考え方を一気に近代化することに主眼があったのではないか」という。「インタビュー」では、「金栗四三」の偉業のありよう、徳川幕府を史上最低の政権というわけや日本の古代からの世界との結びつきに関する達見などを、話し手から生き生きと引き出している。「歴史家廃業」を掲げる気鋭の評論家與那覇潤氏は、「眼前の話題を論じるさいに無意識に陥ってしまう構図を、数十~数百年単位の視座をとることで、いったん崩す。そうした思考のリフレッシュをもたらす『歴史の効能』」(「私の好きな中公新書3冊」なつかしい「理想の教科書」/與那覇潤http://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/113609.html)を指摘し、しかし、「もっともそれはもうすぐ、なくなってしまう文化なのだろう」という。丸山氏は「おわりに」で、「最近、SNS上で『ネトウヨ』『パヨク』とレッテルを貼って、議論とは程遠い非難合戦が目立つのは、あふれかえる情報の取捨選択に疲れて、耳障りがいい情報だけを取り込む人が増えている結果ではないか。自戒を込めていえば、政治家も学者も、そして私が属するメディアも、それを止めるどころか世論の『分断』に乗っかり、右でも左でも上でも下でもない物事の『真ん中』を見つける努力をしていないように思えてならない」という。そして、「失われつつある文化」の意義を示す取り組みに果敢に挑戦しているのだ。ぜひ、一読して、氏の冷静で平易な筆致に秘めた、そのような熱も感じて頂きたいと思う。50 ファイナンス 2020 Aug.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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