ファイナンス 2020年8月号 No.657
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た極右政党「国民戦線(FN)」のルペン候補が上位二人として争い、マクロン大統領を誕生させている。なお、2回投票制は、国民議会議員の選挙(小選挙区制)でも行われている。しかしながら、国民議会議員選挙においては、上位2人だけでの決戦投票が行われるわけではない。一回目の投票で登録有権者数の12.5%以上を獲得した者が2回目に進むことになっており*5、そこで相対多数となった者が当選者になる。2人だけの決選投票で、必ず絶対多数で選出される大統領とは、政治的な権威に大きな差が生まれることになっているのである。2フランスの議会フランスは、憲法上、行政府主導が規定されており、「行政府中心主義」ともいわれる*6。法律事項は憲法で限定列挙されており、政令事項が広範にわたっている*7。限定された法律事項についても、議会から委任される形での多くの行政命令(オルドナンス、憲法第38条)が制定されており、政府はいわば第2の立法機関として位置づけられている。議会運営も、憲法上、行政府主導となっている。フランス憲法第48条第1項は、「議会の議事日程は、優先的に、かつ政府の決める順序により、政府により付託された法案の審議と政府により受け入れられた議員提出法案を含む」と定めている*8。政府は「この法案成立に信任をかける」と宣言すれば、24時間以内に内閣不信任案が可決されない限り、全くの審議なしでも法案を成立させることができる(憲法第49条)*9。議会側の政府牽制手段である内閣不信任動議(下院議員の10分の1以上の提案者で提出できる)も、提出後48時間が経過しなければ採決されず、動議賛成票のみを数えて過半数に達しなければ否決したこととされる(憲法第49*5) 1回目の投票で横一線なら計算上は8人(12.5%×8=100%)が2回目に進む。*6) 以下の記述は、主に「比較議会政治論」(大山礼子、岩波書店、2003)による。*7) 政府は議員提出法案が憲法に定める法律事項に属さないと判断したときは、議長に対して不受理を要求でき、議長が同意しない場合には、憲法院にその判断を求めることができる。他方、議会側から政府の定める政令が政令事項を超えるとの申し出は認められていない。*8) 議事日程は、会期の開始時に政府から議会に伝達されるが(国民議会規則第48条第5項)、政府は自由に変更できる。1995年の憲法改正で、月に1回は、両院により設定される議事日程に優先が与えられるとされた結果、月1回は政府の議事日程に載せてもらえない議員提出法案も審議されることになった(「ユーロ時代のフランス経済」栗原毅、清文社、2005)。*9) 信任をかけた法案成立の手法は、欧州諸国では議会への政府の一般的な対抗手段である(「比較議会政治論」)。ドイツでも同様の手法が認められている(連邦基本法第81条)。*10) 2020年7月3日に首相に任命されたジーン・カスティックスも、南仏プラド市の市長との兼職である。*11) 政府が委員会での法案審議を要求した場合、国会はこれを拒否できない。*12) 複数分野にまたがる6つの常任委員会が設置されている。議員は複数の委員会の委員を兼ねることができない。戦前には、各省の所管を基本とする19の常任委員会が設置されていた。*13) 1994年からは、議事録が公開されるようになっている。実は、我が国の委員会も原則は非公開であるが(国会法第52条、認められるのは議員の傍聴)、実際には報道関係者の他、議員紹介の形で広く一般人の傍聴が認められている。*14) それは、政府が予算編成権と同様の法案編成権を持っていると考えれば理解しやすい。条2項)。大臣には、地方自治体の首長などとの兼任が認められているが*10、議員との兼職は禁止されている。大臣を議会の政治的圧力から切り離すためである。国民議会の開催は、火、水、木の3日間のみで、金曜日から月曜日までは、議員は選挙区にいるのが普通である。火曜日と水曜日の午後約1時間は、英国のクウェスチョン・タイムと同様の「政府への質問」が行なわれる。首相以下の全閣僚が出席し、テレビ中継もされる。質問は12-13問で、事前通告は行なわれない。質問時間は、与党を含む各会派に規模別に割り振られる。隔週火曜日の午前中には、個別議員の地元の問題を中心とする政府への口頭質問が行なわれている。質問は事前通告され、1問につき7分、質問議員以外の出席はあまり無く、政府側も答弁に必要な限定メンバーで臨んでいる。委員会は法案が送付*11されてから3ヶ月以内に審議を終了して本会議に報告しなければならない。委員会は、戦前の委員会において議員が個別利益を代表して跋扈したことへの反省から、個々の議員が省庁の利害に結びつきにくくするために大委員会制度となっている*12。委員会は、非公開である*13。委員会審議における与野党の委員からの修正案提出に制限は無いが、政府はいつでも議長に対して政府として受理するとした修正案だけを加えた政府提出法案の全部または一部について1回で表決すること(一括採決)を求めて審議を終わらせることができる(憲法第43条、第44条)*14。米国における一括採決(ポーク・バレル法案)は、議員のお手盛り法案を通す手法となっているが、フランスの一括採決は、与党会派による多数の修正法案を政府が調整する手法となっている。というのは、フランスでは、日本のような政府と与党の事前調整手 ファイナンス 2020 Aug.45危機対応と財政(3)SPOT

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