ファイナンス 2020年8月号 No.657
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決定のためのデータ基金(D4D:Data for Decisions Fund)は、低所得国や低中所得国等の政策当局に対し、マクロ経済政策の実施能力を高めるため、それらの国における統計の質、量、公表頻度等の向上を目的とした能力開発の提供を目的として、IMFが運営するテーマ別基金の一つであり、日本はG20日本議長国下において本基金への拠出を決め、2019年1月から2020年6月までその運営委員会議長を務めた。以下、本稿では、IMFが行う統計分野の能力開発、本基金の概要、及び議長としての1年半の経験を紹介したい。1IMFによる統計分野の能力開発途上国の多くで、エビデンスに基づいた政策決定を行うために必要な公的統計データを作成するための当局の能力が不足している中、IMFは、全世界の統計分野の能力開発(2015~2017年)の実施規模において第4位(世界銀行28%、Eurostat/EC20%、米国9%、IMF5%)に位置している*1。具体的には、各国のデータ作成当局に対する経済・金融統計関係の技術支援や、セミナーやワークショップの開催を通じたpeer-to-peer learningによる知識の共有により、加盟国の経済・金融統計の整備・普及を図るほか、定期的に統計データ(例えば、国際収支統計)に関するマニュアルを改訂することにより、世界の統計データギャップを埋めるべく貢献してきている。今般の新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する状況下において、公的統計作成・公表を中断せざるを得ない状況(例えば、家計・企業に対する標本調査において物理的な訪問調査が出来ない、調査*1) Paris21 2019 Partner Report on Support to Statistics票に回答するためのリソースを持ち合わせていない等)、また、タイムリー(年次ではなく四半期、月次と高頻度)な更新をしていないために、新型コロナウイルス感染症が与える影響を的確に把握できないといった事態に直面する中、2020年3月中旬から4月末にかけて、102か国にのぼる国がIMFから統計に関する助言を受けている。2決定のためのデータ基金(D4D:Data for Decisions Fund)の概要2018年6月、IMFは、上記のようなIMFによる統計分野の能力開発を一層後押しするため、D4Dを設置。主にアフリカ、アジア、中東・中央アジア地域を中心とした低所得国及び低中所得国向けに、エビデンスに基づくマクロ経済政策実施能力を向上させ、ひいては持続的な開発目標(SDGs)の達成を支援することを目的に、より多く、より質の高いデータを作成するための能力開発を提供している。2019年の日本議長国下でのG20プライオリティの1つとして、「低所得国における債務透明性の向上及び債務持続可能性の確保」が挙げられているが、D4Dは、世銀のマルチドナー基金である債務管理ファシリティ(DMF:Debt Management Facility)と合わせ、そのプライオリティの実施手段であるIMF・世銀のmulti-pronged approachにおける債務の透明性向上の取組の具体的ツールとして位置付けられた(参考図後掲)。具体的には、政府財政統計(GFS:Government Finance Statistics)や公的部門債務統計(PSDS:Public-Sector Debt Statistics)の作成ノウハウの普及を通じた統計データギャップ解消、債務透明性の向上を図るために重要な国営企業や偶発債務のデータ等まで統計のカバレッジをIMFテーマ別基金 (決定のためのデータ基金) 運営委員会議長を終えて国際局総務課長(前・国際局国際機構課長) 緒方 健太郎 ファイナンス 2020 Aug.25SPOT

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