ファイナンス 2020年8月号 No.657
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(2)企業支援の順序(Sequencing)上記の点を踏まえ、経済状況、特に企業の金融環境の変化に応じて支援メニューを拡充、シフトさせることが重要である。実際、流動性(Liquidity)支援を拡大・充実させつつ、成長資金の供給や健全性(Solvency)支援を用意するなど、様々な支援策を、その時々の経済情勢に応じて、タイムリーに提供してきた。まず、流動性(Liquidity)支援のため、政策金融の原資を確保し、日本公庫等の政策金融機関を通じた低利融資の窓口を設置した。次いで、特別貸付制度を設けて実質無利子・無担保融資を創設するとともに、審査態勢の強化や簡略審査の導入を通じて、支援の迅速化を図った。その後、融資実績等を踏まえ、令和2年度第1次・第2次補正予算において融資規模を大幅に拡充し、資金繰り支援に万全を期すこととした。第2次補正予算のプロセスでは、劣後ローンといった資本性資金のメニューも拡充した。これにより、支援先企業が中長期的に持続可能であるが、自己資本が減少したために民間金融機関からの追加融資が困難になった場合などに、資本バッファーを与えて、借入余地を拡充する機能が期待される。また、感染収束後のV字回復に向けた成長支援としてリスクマネーの供給に取り組み、政投銀の特定投資業務や産業革新投資機構(以下、「JIC」という)を通じたリスクマネー供給等を拡充した。これに必要な特定投資業務を延長するための政投銀法改正の法案も国会に提出され、国会における審議を経て、成立した。更に、健全性(Solvency)支援として、地域経済活性化支援機構(以下、「REVIC」という)による財務基盤が一時的に悪化した地域の中核企業等の経営改善支援や、中小企業基盤整備機構(以下、「中小機構」という)による中小企業支援、金融機能強化法による資本参加の枠組みを拡充した。事業者の皆様に安心感を持ってもらうため、中小・小規模事業者、中堅・大企業ともに資金繰り対応に万全を期しており、第2次補正予算後の金融措置は、総額140兆円規模となっている。(3)過去の事例と教訓公的資金を用いて企業を支援する際には、国民への説明責任に留意する必要があるほか、過去の事例から図9 令和2年度2次補正予算における金融措置令和2年度2次補正予算における金融措置これまでの金融措置(45兆円規模)に加え、事業者の皆様に安心感を持ってもらうため、これまでの支援の拡充等(67兆円規模)・資本性資金による支援(12兆円規模)・金融機能強化法に基づく資本参加枠の確保(15兆円規模)により、中小・小規模事業者、中堅・大企業ともに資金繰り対応に万全を期する(総額140兆円規模)。※上記のうち、政策金融による金融措置分は約118兆円。(これまでの約45兆円から約72兆円の追加)※政策金融以外としては、「金融機能強化法に基づく資本参加枠の確保(15兆円程度)」、「NEXIによる海外日系子会社に対する民間融資への付保」や「JIC、REVIC、中小機構(経営力強化ファンド・再生ファンド)による出資等やファンドの拡充」がある。<これまでの支援の拡充等>●日本公庫等・商工中金の実質無利子・無担保融資の融資規模の拡充(33兆円規模(約15兆円⇒約47兆円))※国民事業:融資限度額6千万円→8千万円、無利子枠3千万円→4千万円中小事業、商工中金:融資限度額3億円→ 6億円、無利子枠1億円→ 2億円●民間金融機関の無利子・無担保融資の融資規模の拡充(28兆円規模(約24兆円⇒約53兆円))※ 無利子枠3千万円→4千万円●政投銀・商工中金による中堅・大企業向け融資(シニア)の融資規模の拡充(5兆円規模)※中堅企業向け:▲0.5%利下げ(当初3年間)<資本性資金による支援>●政投銀・商工中金(中堅・大企業向け)、日本公庫等・商工中金(中小・小規模向け)の資本性劣後ローン(6兆円規模) ※大企業・中堅向け政投銀・商工中金:▲0.5%利下げ(中堅企業のみ、当初3年間)※日本政策金融公庫の資本性劣後ローン・限度額:小規模・零細:7,200万円、中規模:7億2,000万円(それぞれ実質無利子・無担保融資等とは別枠)・期間:5年1か月、10年、20年、・利率:当初3年間:0.5%4年目以降:成功時(黒字)は、期間に応じて2.6%~2.95%、失敗時(赤字)は、0.5%※中規模(中小企業事業)の場合●政投銀の「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」の強化(事業規模4,000億円)10 ファイナンス 2020 Aug.特 集

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