ファイナンス 2020年8月号 No.657
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融資の迅速化を徹底してきた。(1)企業支援の概要経済の落ち込みが感染症の拡大によるものである場合、感染症の流行がいずれ収束し、経済は正常化していくことが期待され、それに向けて、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図ることが必要である。こうした状況では、政府として、感染症の影響を受けている企業や国民を支援することが必要であり、事業の継続と雇用の維持が困難になることを防ぐための大胆な施策が不可欠である。感染症拡大を防ぐため、緊急事態宣言を発出して一旦経済活動を抑制するとともに、迅速に、かつ、質量ともに前例に捉われない形で、企業の資金繰り(流動性)を支援することが重要となっていた。ただし、新型コロナウイルス感染症が収束した後には、経済を再び成長軌道に戻していかなければならない。経済成長に必要な生産性向上のために、モラルハザード(経営に問題があり元々持続可能性のない企業が、経営努力を怠り支援に依存する風潮)は、できる*4) 一般に、政策金融は、補助金等に比して、(返済が必要であるため)借入者の努力インセンティヴ付与、(金融的与信判断で選択されることによる)市場ディストーション緩和や、(融資原資の太宗が税金でないことから)納税者の負担軽減といった点で比較優位にあるが、全くのノーリスクであれば敢えて公的部門が介入する付加価値が減殺されるので、一定の信用コストは覚悟せざるをえない。不良債権化が国民負担に繋がるリスクを自覚すると共に、緊急事態において優先せざるをえない迅速化、利便性向上とのトレードオフに悩みながらも、適切な与信審査と債権管理により、そのリスクを極小化する努力を否定してはならない。だけ防止する必要がある。加えて、公的資金を用いて企業を支援する以上、支援段階のみならず、感染症収束後には不良債権化する可能性もあり、その処理も含め、国民への説明責任が生じることに留意する必要がある。*4更に、感染症が収束したポスト・コロナの世界は、新たな世界、いわゆる「ニューノーマル」へと移行するとの見方が強い。感染症拡大と経済活動抑制による経済主体の行動と社会・産業構造の変容は、感染収束後も元に戻らない可能性も念頭に置く必要がある。そのため、デジタル革命を含め、構造変化が生み出した新たなビジネス空間に挑戦する企業を支援すべく、構造改革や前向き投資を後押しするようなリスクキャピタルを供給していかなければいけない。同時に、兼業・副業の環境整備やデジタル専門人材の育成など、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代を見据え、労働者一人一人の生産性を上げるような政策も求められている。図8 中小企業からみた金融機関の貸出態度中小企業からみた金融機関の貸出態度(出典)日本政策金融公庫「中小企業景況調査」01020304050600708091011121314151617181920(DI、%ポイント)年DI(「緩和」-「厳しい」)(構成比、%)回答構成比0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%0708091011121314151617181920緩和普通厳しい年 ファイナンス 2020 Aug.9新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について 特 集

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