ファイナンス 2020年8月号 No.657
10/90

ある。緊急経済対策や補正予算を可能な限り迅速かつ適正に執行し、引き続き、局面に応じて適時適切な対応を講じていく必要がある。また、早期の経済回復を実現するとともに、将来世代への責任も念頭に置きながら、財政の持続可能性を確保していくことも重要な課題となる。(3)企業の財務状況財務省の法人企業統計調査によれば、大企業の内部留保(利益剰余金)は平成30年度末時点で234兆円、現預金は77兆円にのぼる。1か月の粗利(売上高-売上原価)に対する倍率で換算するとそれぞれ約22.3か月分と7.3か月分に相当するなど、新型コロナウイルス感染症のショックに対して、全体として、厚い自己資本を保有していたと評価できる。ただし、こうした自己資本の厚さには業種毎にばらつきが大きい。粗利に対する倍率で見れば、宿泊・飲食サービス業(内部留保:5.2か月分、現預金等:2.9倍)、卸売・小売業(内部留保:13.9倍、現預金等:4.4倍)等で相対的に低い水準にとどまっている。(図3 大企業の財務状況)この点、中堅・中小企業では、1か月の粗利に対する内部留保の倍率は、平均で10.8か月分程度となっており大企業と比べて小さくなっている。(図4 中堅・中小企業の財務状況)また、平成30年度末において、企業の自己資本比率の平均(金融・保険を除く平均)は、42%となっている。この水準は40%を超えており、一般にかなり健全といわれる水準にある。ただし、自己資本比率についても業種毎にばらつきがみられるほか、新型コロナウイルス感染症の影響で、企業が借入等を増加させているなか、今後、自己資本比率の低下が続くことを懸念する指摘もある。(図5 自己資本比率)法人企業景気予測調査によれば、自己資本経常利益率は、令和元年度から令和2年度にかけて、全業種平均(金融・保険業を除く)で2%ポイント程度低下する見通しとなっており、新型コロナウイルス感染症の影響がみられる。(図6 自己資本経常利益率)こうした状況を背景に、企業の資金需要は旺盛となっている。日本銀行の主要銀行貸出動向アンケート調査の7月調査によると、企業の資金需要DIは59とリーマンショック時の43を超える高い水準となっている。特に、中小企業において資金需要が拡大している。今後3か月の見通しは29と現在の水準からは落ち着くものの引き続き高い水準となっており、旺盛な資金需要は今後も続くと見込まれている。(図7 企業の資金需要)資金需要が拡大している中で、金融機関の貸出態度については、日本公庫の中小企業景況調査によると、中小企業からみた金融機関の貸出態度は5月時点で一度33.8まで落ち込んだものの6月には42.5まで回復図3 大企業の財務状況大企業の財務状況05101520253035404550食料品繊維工業木材・木製品パルプ・紙・紙加工品印刷・同関連業化学工業石油製品・石炭製品窯業・土石製品鉄鋼業非鉄金属金属製品はん用機械器具生産用機械器具業務用機械器具電気機械器具情報通信機械器具輸送用機械器具その他の製造業農林水産運輸、郵便卸売・小売不動産、物品賃貸物品賃貸宿泊、飲食サービス生活関連サービス、娯楽学術研究、専門・技術サービス教育、学習支援医療、福祉職業紹介・労働者派遣その他のサービス業内部留保/(売上高-売上原価)0510152025食料品繊維工業木材・木製品パルプ・紙・紙加工品印刷・同関連業化学工業石油製品・石炭製品窯業・土石製品鉄鋼業非鉄金属金属製品はん用機械器具生産用機械器具業務用機械器具電気機械器具情報通信機械器具輸送用機械器具その他の製造業農林水産運輸、郵便卸売・小売不動産、物品賃貸物品賃貸宿泊、飲食サービス生活関連サービス、娯楽学術研究、専門・技術サービス教育、学習支援医療、福祉職業紹介・労働者派遣その他のサービス業現預金等/(売上高-売上原価)(月)(月)全産業:22.3か月全産業:7.3か月(出典)財務省「法人企業統計」(2018年度調査)6 ファイナンス 2020 Aug.特 集

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る