ファイナンス 2020年7月号 No.656
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の業種で正の相関がみられたが、全ての業種で一律に当てはまるわけではないことも明らかとなった。他の業種と比較して労働生産性が低い「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」のように、企業規模が一定以上に大きくなると労働生産性が下がる業種があり、正社員比率の違いが背景の一つとして考えられることが分析結果から示唆された。4.日本企業のICT投資に関する分析感染症拡大の影響が長期化することを想定したうえで労働生産性の向上に取り組むためには、できるだけ人と接触しないビジネスモデルを構築することが重要である。そして、その実現にはリモートで仕事ができる環境の整備のためのICT投資を推し進める必要がある。ICT投資の拡充は労働生産性の向上にも効果があることが指摘されている(財務総合政策研究所(2017))。日本のICT投資と労働生産性の関係を確認するために、本稿では『平成30年(2018年)度 法人企業統計調査』の個票データを用いて、製造業とサービス業に分けたうえで、各企業の1人当たりのソフトウェア投資額をICT装備率とし、ICT装備率の低い企業から高い企業に順に並べた上で5つのグループに区分して、それぞれの労働生産性を計算した(図表4)*6。これをみると、ICT装備率が高ければ高いほど、製造業と*6) ICT投資の代理指標として、法人企業統計調査のソフトウェア投資額を使用した。また、ICT装備率の算出には以下の式を用いている。 ICT装備率=(前期末のソフトウェア+当期末のソフトウェア)÷2従業員数 なお、データはソフトウェア投資額に記載がある8,866社の集計であるが、企業によってはソフトウェアを有形固定資産と一体のものとしておりソフトウェア投資額の記載がない場合があるため、実際のICT投資額より少ない可能性が考えられる。*7) 宮川・滝澤・宮川(2020)でも、労働生産性とIT投資比率との間にプラスの相関がみられたとの結果を得ている。サービス業ともに、労働生産性が高くなっていることが確認できる*7。図表4 業種別のICT装備率に応じた労働生産性(平均値)(注1)横軸は、ICT装備率が低い順番に全企業を5つのグループに分けたもの。(注2)各グループの労働生産性は、企業ごとに以下の式により労働生産性を算出し、各グループで平均している。労働生産性=(人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益)÷従業員数※人件費=役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費(注3)ソフトウェア投資がある企業のみを対象にしている。また、外れ値の影響を除外するため労働生産性の順で上下5%の企業を捨象している。(注4)本グラフは、広木隆(2020)の従業員1人当たりのソフトウェア額のグラフを参考に作成。(出所)『平成30年(2018年)度 法人企業統計調査』より作成。2004006008001,0001,2001,40001,600(万円)製造業サービス業p80‒p100p60‒p80p40‒p60p20‒p40p0‒p20業種別にICT装備率を確認してみると(図表5)、「情報通信業」が最も大きい。一方、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」、「運輸業、郵便業」が比較的小さい。このように業種間でばらつきが見られるが、これは業務の特性によるところが大きいと考えられる。なお、ICTを利用した業務として在宅勤務(テレワーク)があるが、新型コロナウイルス感染拡大後の産業別の適用状況を見ると、「情報サービス」が高い図表3 業種別・企業規模別の正社員比率の比較全産業製造業非製造業サービス業建設業医療、福祉情報通信業卸売業小売業飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業宿泊業運輸業、郵便業正社員比率企業規模L1-40.6520.7190.6110.7330.7040.6450.3710.5110.7310.7930.597L5-90.6030.6530.5450.7840.7190.5340.2460.3740.7970.8050.544L10-190.6110.7000.5380.8450.7620.3690.2490.3360.8330.8520.516L20-490.6380.7340.5730.8770.7760.3490.2670.3930.8390.8840.545L50-990.6630.7690.6130.8780.7890.4370.2600.4680.8140.8910.601L100-2490.6680.7800.6100.8860.7860.4940.2400.5030.7780.8790.646L250-4990.6650.7860.5920.8880.7890.5340.2040.5400.7490.8740.687L500+0.6280.8140.5260.8760.7640.4120.1900.5430.6920.8820.683全規模0.6340.7060.5840.7960.7270.5600.3180.4310.8020.8130.560(注1)各規模階層の正社員比率は、企業ごとに正社員比率を算出し、各規模階層で平均している。(注2)業種は、主要業種を取り上げている。(出所)『平成28年(2016年)経済センサス-活動調査』より作成。 ファイナンス 2020 Jul.67シリーズ 日本経済を考える 102連載日本経済を 考える

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