ファイナンス 2020年7月号 No.656
70/86

企業規模(従業員数)ごとに分けて各企業の労働生産性の平均を示した結果が図表2である。まず、業種別の労働生産性の水準をみると、労働生産性が高い業種がある一方、「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」、「宿泊業」は労働生産性の水準が比較的低い。次に、企業規模に着目すると、企業規模が大きくなると、労働生産性の水準が総じて高くなる傾向がある。その中でも、「製造業」、「情報通信業」、「卸売業」、「建設業」は、企業規模と労働生産性との正の相関が強く、企業規模が大きくなればなるほど労働生産性が高くなっている。そのほか、「宿泊業」は、労働生産性の水準は低いものの、企業規模と労働生産性との正の相関が確認できる。一方、「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」は、企業規模と労働生産性との相関が弱い。具体的には、「小売業」は従業員数250~499人がピーク、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」は従業員数50~99人がピークで、一定の規模までは労働生産性が高くなっているが、それ以上の規模になると低下している。これらの結果から、労働生産性は企業規模と関係している傾向が総じてみられるものの、業種によっては一定以上の規模になると当てはまらないことがわかった。では、なぜ「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達*5) 本稿では、『平成28年(2016年)経済センサス-活動調査』における常用雇用者のうち正社員・正職員として処遇している人の割合を正社員比率とした。飲食サービス業」は、企業規模と労働生産性の関係がそれほど強くないのか。その背景について以下で検討する。3.3 業種別・企業規模別の正社員比率雇用形態の違いに着目し、業種別・規模別に各企業の正社員比率の平均を確認したものが図表3である*5。まず、業種別で確認すると、正社員比率が比較的高い業種がある一方、「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」、「宿泊業」は正社員比率が比較的低く、上記3.2で分析した労働生産性が比較的低い業種とほぼ同様である。次に、同じ業種のなかで企業規模ごとの正社員比率を確認したところ、「製造業」は総じて企業規模が大きくなるほど正社員比率が高まっている。また、「情報通信業」や「建設業」は企業規模が大きくなるほど正社員比率が緩やかに高まりほぼ横ばいとなっている。他方、正社員比率が低い「小売業」は企業規模ごとにばらつきが生じており、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」は企業規模が大きくなると正社員比率が総じて下がっている。これらの結果から、正社員比率の違いによる正社員と非正規社員の賃金等の待遇格差が、労働生産性の違いの背景にあるのではないかと考えられる。ここで小括すると、企業規模と労働生産性には多く図表2 業種別・企業規模別の労働生産性の水準比較(単位:万円)全産業製造業非製造業サービス業建設業医療、福祉情報通信業卸売業小売業飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業宿泊業運輸業、郵便業労働生産性企業規模L1-4393.0365.9338.9569.8557.3311.3178.9225.5870.4430.3402.5L5-9403.1402.5371.2474.1594.5365.7180.4212.8454.2420.0458.4L10-19449.7453.1439.4561.8684.1375.7213.0255.6435.9465.6445.6L20-49483.3493.8496.1568.6725.8340.8233.9292.2445.2523.5394.1L50-99505.4552.5522.3647.0788.2373.3236.2357.4573.2597.4334.5L100-249538.1633.7547.2751.9858.4437.8234.0359.9475.9704.0289.9L250-499604.5766.3574.0897.8916.8521.9227.3413.6490.5836.5422.0L500+647.5894.4565.91006.01009.4435.0197.1469.5498.7966.0402.5全規模417.1425.9378.3571.2614.4336.2185.6244.6535.5442.3422.7相関係数0.75**0.82**0.490.83**0.76**0.37-0.200.77**-0.120.82**0.02(0.031)(0.012)(0.2187)(0.011)(0.029)(0.364)(0.634)(0.026)(0.771)(0.012)(0.970)(注1)各規模階層の労働生産性は、企業ごとに付加価値額(売上高-費用総額+給与総額+租税公課)を常用雇用者数で除して企業ごとの労働生産性を算出し、各規模階層で平均している。(注2)相関係数は、企業規模ごとの平均従業員数と労働生産性との相関係数である。なお、()内の数値はp値である。(注3)業種は、主要業種を取り上げている。(出所)『平成28年(2016年)経済センサス-活動調査』より作成。66 ファイナンス 2020 Jul.連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る