ファイナンス 2020年7月号 No.656
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さらに、2020年版の『中小企業白書』では、『平成28年(2016年) 経済センサス-活動調査』の個票データを用いて、中小企業基本法での中小企業の定義(資本金、常時雇用する従業員)をベースに企業規模を分けて労働生産性について分析をした結果、企業規模が大きくなるにつれて労働生産性が高くなっているが、労働生産性の規模間格差は業種によって大きく異なることを指摘している*3。これらの日本の企業データを用いた一連の研究の結果は、企業規模と労働生産性に正の相関がみられるが、その相関の強さは業種間で異なることを示している。他方で、これらの先行研究は、企業の「規模」と労働生産性の関係を分析しているが、何を「規模」の基準として用いているかがそれぞれ異なっている。そこで本稿では、アトキンソン(2019、2020)や奥・井上・升井(2020)で用いているように、従業員数をベースにした企業規模を用いる。*3) 中小企業庁(2020)98-100頁。*4) 本稿で用いたサービス業には、「情報通信業」、「卸売業」、「小売業」、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」、「宿泊業」、「運輸業、郵便業」、「物品賃貸業」、「生活関連サービス業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「職業紹介・労働者派遣業」、「その他のサービス業」が含まれる。また、「医療・福祉」は、公定価格が定められているなど業種特有の事情があることや、医療から福祉まで幅広い業種が1つのカテゴリーに含まれていることから振れが大きいため、本稿では分析対象とはせずに参考数値として掲載する。3. 日本企業の労働生産性に関する分析3.1 業種別・企業規模別の従業員数まず、日本の産業構造として、それぞれの業種においてどのくらいの労働者がどの程度の規模の企業で働いているかを把握したものが図表1である*4。例えば、「情報通信業」では、500人以上の企業で働いている従業員が全体の約半分を占めている。一方、「建設業」をみると、従業員数1~4人の小規模企業で働く従業員の割合が1割超と比較的高い。このように、従業員が大企業に集中している業種と、多数の中小規模企業が存在する業種があり、業種により企業の規模にばらつきが大きいことが確認できる。3.2 業種別・企業規模別の労働生産性本稿では、労働生産性を分析するために、『平成28年(2016年) 経済センサス-活動調査』(調査期間:2015年1月から12月まで)の個票データを用いた。図表1 業種別・企業規模別の従業員数(注1)「平成28年(2016年)経済センサス-活動調査」では、従業員の雇用形態について、期間を定めずに、または1か月以上の期間を定めて雇用している人(常用雇用者)とそれ以外の雇用者(臨時雇用者)を調査している。本稿では、常用雇用者数を従業員数としている。(注2)本稿では、従業員数に応じて、8区分(L1‒4、L5‒9、L10‒19、L20‒49、L50‒99、L100‒249、L250‒499、L500+)に分けている。図表の中の、例えばL1‒4は、従業員数(『経済センサス』では常用雇用者数)が1人から4人であることを示している。(注3)業種は、主要業種を取り上げている。(出所)『平成28年(2016年)経済センサス-活動調査』より作成。6.33.57.02.16.58.211.14.80.812.62.67.75.37.43.08.87.612.87.72.419.07.98.47.07.84.49.89.68.99.75.618.99.311.412.110.79.214.111.27.414.813.017.812.18.49.87.99.010.96.04.911.311.07.510.911.313.410.514.314.07.06.514.415.26.217.08.39.17.710.39.46.04.88.59.63.812.738.239.741.047.626.544.543.528.942.414.127.6100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%全産業製造業サービス業情報通信業卸売業小売業飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業宿泊業運輸業、郵便業建設業医療、福祉L1‒4L5‒9L10‒19L20‒49L50‒99L100‒249L250‒499L500+ ファイナンス 2020 Jul.65シリーズ 日本経済を考える 102連載日本経済を 考える

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