ファイナンス 2020年7月号 No.656
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大後の産業構造の方向性*1―日本企業の労働生産性を踏まえた分析―シリーズ日本経済を考える1021. レジリエントな産業構造とする必要性*1新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響を受け、IMFのWorld Economic Outlook(June 2020)による日本経済の2020年実質GDP成長率の見通しは▲5.8%となっている。後退すると見込まれる経済を回復させるために、まずは感染症拡大を早期に収束させる必要がある。これに加え、日本の場合は、人口減少・超高齢化という構造的な課題にも対応していかなければならない。これらの問題に直面する中で、どのように経済を成長させていくのかを検討していくことは、わが国にとって重要な政策課題である。人口減少下において持続的な経済成長を実現するためには、労働生産性の向上が必須であり、また感染症に対するレジリエンスを高めるという観点からも重要な論点である。目下のところ喫緊の課題となっている感染症の拡大により、労働集約的な産業や低賃金の産業は、特に感染症拡大の影響が大きいと考えられる*2。さらに、人口減少はもとより、感染症拡大の影響も中長期にわたって経済に影響を与えるおそれがあることから、今後は他人との接触を減らす工夫をしつつ、労働生産性を今まで以上に引き上げていく必要がある。そのためには、ICTを活用したビジネスモデルをさらに構築していくことが求められる。*1) 本稿内容は筆者らの個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。*2) ILO(2020)p.5.2.先行研究と本稿の位置づけ日本の生産性について最近の研究をみると、アトキンソン(2019、2020)は、主要国との比較や海外の先行研究を広くレビューしたうえで、日本の生産性が低いのは規模が小さい企業の割合が大きいことが主な原因であるとし、企業規模を大きくしていく必要性を強調している。企業規模を大きくしていくことと労働生産性の関係については、日本企業の個票データを用いた研究が最近蓄積されている。まず、滝澤(2020)は、『株式会社東京商工リサーチ(TSR)』(2015年1月期~2018年12月期決算)から取得した個票データを用いて、売上高ベースで企業規模を分けて分析した結果、企業規模が大きいほど労働生産性が高いという結果を得ていることに加え、製造業は非製造業に比して平均的に高い労働生産性を示す一方で、非製造業は産業間で労働生産性のばらつきが相対的に大きく、異質性が高いことを指摘している。次に、奥・井上・升井(2020)は、『平成30年(2018年)度 法人企業統計調査』の年次別調査の個票データを用いて、従業員数をベースに企業規模を分けて分析した結果、企業規模が大きいほど1人当たりの賃金、労働生産性がともに高いが、サービス業は製造業ほど企業規模との相関が強くないことや、製造業、サービス業とも、労働生産性と1人当たりの賃金は正の相関がある、といった結果を得ている。財務総合政策研究所 総括主任研究官奥 愛前財務総合政策研究所 研究員井上 俊財務総合政策研究所 財政経済計量分析室員升井 翼64 ファイナンス 2020 Jul.連載日本経済を 考える

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