ファイナンス 2020年7月号 No.656
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化とオプションの損益が概ね一対一に対応するので、事実上、国債先物をロングしていることとほぼ同じと解釈できます。原資産(国債先物)をロングしている場合、いうまでもなくその価格が動いた時、その変化が損益に相当しますから、デルタの定義を思い出せば(原資産である先物の価格が変化した際のオプション価格の変化)、ほぼ行使されるオプションのデルタは1に近い値をとることがわかります。一方、逆に、権利行使価格が157円のコール・オプションの場合、先物価格がやはり152円であれば、これは今すぐ権利行使しても利益がでないためOTMのオプションです。この場合、満期までそれほど時間がないことを考えると、価格が満期まで急騰して157円になる可能性は低いことから、ほぼ権利行使されないコール・オプションと解釈できます。ほぼ行使されないオプションを保有していても、何も持っていないのとほぼ同じですから、デルタは0に近い値をとります。ATMはその両極端の中間に位置するため、ATMのデルタはおおむね0.5になります(ATMだと、権利行使される確率が五分五分であるため、デルタがおおよそ50%という直感で解釈する人もいます)*13。図4に示されている通り、デルタは満期にも依存する点に注意が必要です*14。3.2  デルタを用いたスマイル・カーブとスキュー表2がデルタ表示でみたある時点でのスマイル・*13) デルタの水準は満期でITMとなるおおよその確率として解釈することができます。*14) 図4に示されている通り、満期までの時間によってデルタの形状が変わることに注意する必要があります。例えば、満期が明日であれば、OTMのオプションの場合、権利行使できる可能性が低いので、原資産が多少動いてもオプションの価値は動かず、デルタは低い値になります。一方、満期が長ければ、仮にATMから離れたOTMオプションであっても原資産の価格変動によっては利益を生む可能性があるため、原資産の価格が動くことによりオプションの価格が一定程度変化し、デルタが相対的に高い値になります。*15) 例えばBloombergのJBA Comdty OVDVを用いると、ボラティリティ・スマイルを表示するうえで、権利行使価格として10DPや10DCなどの表示がなされています。10DPは10%デルタのプット、10DCは10%デルタのコールを示しています。BloombergのJBA Comdty OVDVでは、デフォルトの設定として、10DP、15DP、25DP、35DP、50D、35DC、25DC、15DC、10DCが表示されています。カーブになります。前述のとおり、OTMのオプションだけを用いているため、下落方向はプット、上昇方向はコールのIVが用いられています。前述のとおり、デルタがおおむね50%の場合、ATMであり、デルタが0%に近いほどOTMとしての色彩が強くなります。たとえば「25%プット」とは、デルタが0%と50%の中間に位置するOTMであることを意味しています。「10%プット」とは、「25%プット」よりアウト方向のオプションであることを意味するため、価格暴落の保険としての色彩がより強くなるといえます(このようにOTMが非常に深い状態をディープ・アウト・オブ・ザ・マネーということもあります)。このような表示は実務的にはしばしば用いられます。例えば、国債先物のボラティリティ・スマイルに関するBloombergのツールでもデルタを使った表示がなされています*15。表2 デルタ表示でみた日本国債先物スマイル・カーブのイメージ5%プット10%プット25%プットATM25%コール10%コール5%コール2.50%2.30%2.10%2.00%2.05%2.20%2.40%注:上図ではIVを表示していますが、ここではあくまでも仮想的な値を用いています。このようにデルタを使えば、ATMからの乖離を表現できるので、デルタを利用してスキューを定義することができます。例えば、前述のBloombergで取得できる米国債先物オプションのスキュー指数は満期が1か月の「要です。3.2デルタを用いたスマイル・カーブとスキュー図がデルタ表示でみたある時点でのスマイル・カーブになります。前述のとおり、のオプションだけを用いているため、下落方向はプット、上昇方向はコールの価格のが用いられています。前述のとおり、デルタがであり、デルタがに近いほどとしての色彩が強くなります。たとえば「プット」とはのプットを意味しており、との中間に位置するであることを意味しています。「プット」とは、「プット」よりアウト方向のオプションであることを意味するため、価格暴落の保険としての色彩がより強くなるといえます(このように非常にが非常に深い状態をディープ・アウト・オブ・ザ・マネーということもあります)。このような表示は実務的にはしばしば用いられます。たとえばのツールでもデルタを使った表示がなされています。図デルタ表示でみた日本国債先物スマイル・カーブのイメージ注:上図ではを表示していますが、ここではあくまでも仮想的な値を用いています。このようにデルタを使えば、からの乖離を表現できるので、デルタを利用してスキューを計算することができます。例えば、前述ので取得できる国債先物オプションのスキュー指数は満期がか月の「-」で定義されています。これはデルタがのオプションの中でも、だけから離れたプットとコールのの差でスキューを計算しているということです。これを例えば、「-」という形で定義すればよりアウトに外れたオプションでスキューを図に示されている通り、満期までの時間によってデルタの形状が変わることに注意する必要があります。例えば、満期が明日であれば、例えば、のオプションのように現在の円からある程度離れてしまうと、もうほとんど権利行使できる可能性がないので、原資産が多少動いてもオプションの価値は動かないため、デルタは低い値になります。一方、満期が長ければ、仮にから離れたオプシ5%プット10%プット25%プットATM25%コール10%コール5%コール2.50%2.30%2.10%2.00%2.05%2.20%2.40%」で定義されています。これはデルタの水準がOTMのオプションの中で図4 デルタとOTM/ITMオプションの関係ITMATMOTM10.750.50.250満期が長いオプションデルタ満期が短いオプション注:Huggins and Schaller (2013)などを参考に筆者作成52 ファイナンス 2020 Jul.SPOT

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