ファイナンス 2020年7月号 No.656
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しかしながら、服部(2020a,b)でも記載したとおり、国債先物オプションのIVを計算するうえで、正規分布に基づいたブラック76モデルが用いられることがほとんどです。そこで、冒頭で記載したとおり、ブラック76モデルが前提としている金利変化から示唆されるボラティリティにプレミアムを追加することで、この問題に対処することを考えます。まず、IVと権利行使価格の関係を直感的に考えるために、縦軸をIV、横軸を権利行使価格としてカーブを描きます(これは金利と年限の関係を考えるため、イールドカーブを描くことで直感的な理解を得ることと同じイメージです*7)。ブラック・ショールズ・モデルやブラック76モデルでは、そもそもボラティリティが(権利行使価格に依存せず)一定であることを仮定しています(ブラック76モデルについてはBOX 1を参照ください)。これはハル(2016)などが指摘しているとおり、正規性が生まれるための条件です*8。すなわち、ブラック76モデルではボラティリティが権利行使価格に依存しないわけですから、ボラティリティのカーブは、図2の左図にあるようなフラットなカーブとなります。しかし、既に確認したとおり、現実には暴落が起こる確率は正規分布が想定する確率より高いといえます。このことは、正規分布に基づくオプションのプライスは実際の暴落を過小評価していることを意味します。もし仮に市場にこのプライスでオプションが取引されていたら、このプライスは暴落を過小評価しているため、投資家はそのオプションに対する需要を増や*7) イールドカーブについては服部(2019)をご参照ください。*8) ハル(2016)に記載しているとおり、資産価格が対数正規分布に従うためには①資産のボラティリティは一定である、②資産価格はジャンプがなく連続的に変化する(同書、p.682)、という仮定が必要になります。*9) 先物価格と行使価格が一致する場合、このオプションをAt The Money (ATM)といいます。詳細は服部(2020b)を参照してください。*10) 三菱東京UFJ銀行(2014)では、ブラック・モデルにおける原資産価格のモデルのおけるボラティリティ項の関数をしかし、既に確認したとおり、実際は正規能性は高いといえます。このことは、正規分を過小評価していることを意味します。もされていたら、このプライスは暴落を過小評する需要を増やします。オプションへの需要すが、このことは図の右図のように示唆する価格より高いプレミアムが付されり、権利行使価格との関係は人の笑顔のスマイル・カーブといいます。冒頭で記載したとおり、スマイルの発生はック・マンデーを契機としているといわれまたエマニュエル・ダーマン氏は「世界中で株以降から、投資家は習慣的な株式暴落の可能ら防衛できるならばためらいなく資金を投入ネー・プットはそのためには最適かつ最もコ年当時には、すべての株式市場で似たようないた」(ダーマン)と記載上記の通り、スマイルが発生している理由るからですが、この問題を解消するため、今でも国債先物オプションではブラック()でも強調したように、実務の現場でめ、正規分布に基づくブラックモデルを分布から示唆されるプライスにプレミアムみに、服部()で紹介した日本国債インプライド・ボラティリティが用いられてしてください)。注意すべきは、スマイル・カーブを描く)のオプションのを用いる行使しても利益が出ないオプションです。服先物価格と行使価格が一致する場合、このオプシ服部()を参照してください。三菱東京銀行()では、ブラック・モティ項の関数をのような形で時間に依存するよう身など)に依存した関数とする、②に確率構造をった拡張が、ボラティリティ・スマイルを表現する銀行()を参照してください。のような形で時間に依存するようにしたうえで、①しかし、既に確認したとおり、実際は正規分布で想定されないレアなイベントが起こる可能性は高いといえます。このことは、正規分布に基づくオプションのプライスは実際の暴落を過小評価していることを意味します。もし仮に市場にこのプライスでオプションが取引されていたら、このプライスは暴落を過小評価しているため、投資家はそのオプションに対する需要を増やします。オプションへの需要の上昇はオプションの価格()を上昇させますが、このことは図の右図のようにから離れたオプションについては正規分布が示唆する価格より高いプレミアムが付されることを意味します。この図で示しているとおり、権利行使価格との関係は人の笑顔のような形状をしていることから、このカーブをスマイル・カーブといいます。冒頭で記載したとおり、スマイルの発生は、年の株式市場が暴落したいわゆるブラック・マンデーを契機としているといわれます。ゴールドマン・サックスでクオンツを務めたエマニュエル・ダーマン氏は「世界中で株式市場が暴落したその日(ブラック・マンデー)以降から、投資家は習慣的な株式暴落の可能性について常に注意を払うようになり、それから防衛できるならばためらいなく資金を投入するようになっていた。アウト・オブ・ザ・マネー・プットはそのためには最適かつ最もコストの低い保険だった。(中略)その結果、年当時には、すべての株式市場で似たようなスマイル(スマーク)が出現するようになっていた」(ダーマン)と記載しています。上記の通り、スマイルが発生している理由はブラックモデルが正規分布に依存しているからですが、この問題を解消するため、様々なモデルが提案されています。もっとも、今でも国債先物オプションではブラックモデルを用いることがほとんどです。服部()でも強調したように、実務の現場では、各社が異なるモデルを用いると混乱するため、正規分布に基づくブラックモデルを標準モデルとし、実際の取引に当たっては正規分布から示唆されるプライスにプレミアムを付すという商慣行が生まれたわけです。ちなみに、服部()で紹介した日本国債は特定のモデルに基づかないモデル・フリー・インプライド・ボラティリティが用いられています(日本国債の詳細はを参照してください)。注意すべきは、スマイル・カーブを描く際は、アウト・オブ・ザ・マネー()のオプションのを用いる点です。のオプションの定義とは、現在行使しても利益が出ないオプションです。服部()で記載したとおり、のオプ先物価格と行使価格が一致する場合、このオプションを()といいます。詳細は服部()を参照してください。三菱東京銀行()では、ブラック・モデルにおける原資産価格のモデルのおけるボラティリティ項の関数をのような形で時間に依存するようにしたうえで、①を時間以外の要素(原資産価格自身など)に依存した関数とする、②に確率構造を入れる、③ジャンプ項など追加的な項を加える、といった拡張が、ボラティリティ・スマイルを表現するうえで必要であるとしています。詳細は三菱東京銀行()を参照してください。を時間以外の要素(原資産価格自身など)に依存した関数とする、②しかし、既に確認したとおり、実際は正規分布で想定され能性は高いといえます。このことは、正規分布に基づくオプを過小評価していることを意味します。もし仮に市場にこされていたら、このプライスは暴落を過小評価しているためする需要を増やします。オプションへの需要の上昇はオプシすが、このことは図の右図のようにから離れたオ示唆する価格より高いプレミアムが付されることを意味しり、権利行使価格との関係は人の笑顔のような形状をしスマイル・カーブといいます。冒頭で記載したとおり、スマイルの発生は、年の株ック・マンデーを契機としているといわれます。ゴールドマたエマニュエル・ダーマン氏は「世界中で株式市場が暴落し以降から、投資家は習慣的な株式暴落の可能性について常にら防衛できるならばためらいなく資金を投入するようになネー・プットはそのためには最適かつ最もコストの低い保年当時には、すべての株式市場で似たようなスマイル(スマいた」(ダーマン)と記載しています。上記の通り、スマイルが発生している理由はブラックるからですが、この問題を解消するため、様々なモデルが今でも国債先物オプションではブラックモデルを用()でも強調したように、実務の現場では、各社が異なめ、正規分布に基づくブラックモデルを標準モデルとし分布から示唆されるプライスにプレミアムを付すという商みに、服部()で紹介した日本国債は特定のモデインプライド・ボラティリティが用いられています(日本国してください)。注意すべきは、スマイル・カーブを描く際は、アウト・)のオプションのを用いる点です。行使しても利益が出ないオプションです。服部()で先物価格と行使価格が一致する場合、このオプションを服部()を参照してください。三菱東京銀行()では、ブラック・モデルにおける原資ティ項の関数をのような形で時間に依存するようにしたうえで、①身など)に依存した関数とする、②に確率構造を入れる、③ジャンった拡張が、ボラティリティ・スマイルを表現するうえで必要である銀行()を参照してください。に確率構造を入れる、③ジャンプ項など追加的な項を加える、といった拡張がボラティリティ・スマイルを表現するうえで必要であるとしています。詳細は三菱東京UFJ銀行(2014)を参照してください。します。オプションへの需要の増加はオプションの価格(IV)を上昇させますが、このことは図2の右図のようにATM*9から離れたオプションについては正規分布が示唆する価格より高いプレミアムが付されることを意味します。この図で示しているとおり、権利行使価格とIVの関係は人の笑顔のような形状をしていることから、このカーブをスマイル・カーブといいます。冒頭で記載したとおり、スマイルの発生は、1987年のブラック・マンデーを契機としているといわれています。ゴールドマン・サックスでクオンツを務めたエマニュエル・ダーマン氏は「世界中で株式市場が暴落したその日(ブラック・マンデー)以降から、投資家は習慣的な株式暴落の可能性について常に注意を払うようになり、それから防衛できるならばためらいなく資金を投入するようになっていた。アウト・オブ・ザ・マネー・プットはそのためには最適かつ最もコストの低い保険だった。(中略)その結果、90年当時には、すべての株式市場で似たようなスマイル(スマーク)が出現するようになっていた」(ダーマン 2005, p.351-p.352)と記載しています。上記の通り、スマイルが発生している理由はブラック76モデルが正規分布に依存しているからですが、この問題を解消するため、様々なモデルが提案されています*10。もっとも、今でも国債先物オプションではブラック76モデルを用いることがほとんどです。服部(2020a)でも強調したように、実務の現場では、各社が異なるモデルを用いると混乱するため、正規分布に基づくブラック76モデルを標準モデルとし、実図2 ボラティリティ・スマイルのイメージATM権利行使価格IVブラック76モデルはフラット・カーブATM権利行使価格IV実際はスマイル・カーブプットのOTMのIVから計算コールのITMのIVから計算 ファイナンス 2020 Jul.49ボラティリティ・スマイルとスキューSPOT

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