ファイナンス 2020年7月号 No.656
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るかについてデータで確認してみましょう。金融データがどの程度正規分布から乖離するかを把握する概念として、統計学には、「歪度(Skew, スキュー)」と「尖度(Kurtosis, カートシス)」という概念があります*4。「スキュー」は図1の左図のように金利変化が正規分布から左右にどの程度乖離するかという非対称性をとらえる指標になります。詳細な議論は統計学のテキストに譲りますが、横軸を先物価格の変化率(金利の変化)とするならば、図1の左図のようにスキューが負(正)の場合、平均からみて暴落(急騰)の方が起こりやすい分布を想定します(正規分布のように左右対称であればスキューは0になります)。一方、カートシスは図1の右側のように正規分布からどの程度裾が厚いかを示します。具体的にはカートシスが3を超えた場合、正規分布より裾が厚く(すなわち平均から大きく外れた事象が正規分布より起こりやすく)、3を下回った場合は裾が薄いことを示します(正規分布であればカートシスは3になります)*5。それではスキューとカートシスを用いて国債先物の価格変化や国債の金利変化がどのように正規分布から乖離しているかについて確認しましょう。表1は2000年以降の日次ベースでみた国債先物と日本国債(5年、10年、20年)のデータを用いてスキューとカートシスを計算した結果を示しています(国債先物は価格の変化率、日本国債については金利の変化をみています)。まず、国債先物をみると、スキューは負の値をとっていますから、図1を考えると、価格の急*4) スキューはうな極端な現象を「ブラック・スワン」と呼んだことから、スキュー指数は「ブラック・スワン指数」と呼ばれることもあります。本稿では服部(、)で記載した内容を前提としますので、そちらの文献も適時参照いただければ幸いです。.権利行使価格との関係:スマイル・カーブとスキュー.1正規分布からの乖離:スキューとカートシス服部()では正規分布を想定するブラックモデルに基づき金利リスクについて考えてきましたが、先物価格や金利の変化が正規分布に従わない可能性について考えていきます。最初に、先物価格や金利の変化が正規分布からどのように外れているのかについてデータで確認してみましょう。金融データが正規分布からどのようにずれているかを把握する概念として、統計学には、「歪度(スキュー)」と「尖度(カートシス)」という概念があります。筆者の印象では歪度や尖度という表現が用いられることが多いですが、オプションではスキューという言葉が実務で用いられるため、ここではスキューとカートシスという表現を使うことにします。「スキュー」は図の左図のように金利変化が正規分布から左右にどの程度乖離するかという非対称性をとらえる指標になります。詳細な議論は統計学のテキストに譲りますが、イメージは図の左図に記載しています。横軸を価格の変化率とするならば、スキューが負(正)の時、平均からみて暴落(急騰)の方が起こりやすいことを表しています(正規分布のように左右対称であればスキューはになります)。一方、カートシスは図の右側のように正規分布からどの程度裾が厚いかを示します。具体的にはカートシスはを超えた場合、正規分布より裾が厚く(すなわち平均から大きく外れたことが起こりやすく)、を下回った場合は裾が薄いことを示します(正規分布であればカートシスはになります)。図歪度(スキュー)と歪度(カートシス)のイメージスキューは̂=(1/)∑(−̅)3=1[(1/)∑(−̅)2=1]3/2、カートシスは̂=(1/)∑(−̅)4=1[(1/)∑(−̅)2=1]2で定義されます(ここでの̅は標本平均を示しています)。株式など資産価格のリターンのカートシスは有意に3を超えることがほとんどです。ちなみに、統計パッケージソフトなどを用いて計算した場合、カートシスから3を引いた超過カートシス()が計算されることがある点に注意してください。この場合、を上回った場合、正規分布より裾が厚いことを示します。、カートシスはうな極端な現象を「ブラック・スワン」と呼んだことから、スキュー指数は「ブラック・スワン指数」と呼ばれることもあります。本稿では服部(、)で記載した内容を前提としますので、そちらの文献も適時参照いただければ幸いです。.権利行使価格との関係:スマイル・カーブとスキュー.1正規分布からの乖離:スキューとカートシス服部()では正規分布を想定するブラックモデルに基づき金利リスクについて考えてきましたが、先物価格や金利の変化が正規分布に従わない可能性について考えていきます。最初に、先物価格や金利の変化が正規分布からどのように外れているのかについてデータで確認してみましょう。金融データが正規分布からどのようにずれているかを把握する概念として、統計学には、「歪度(スキュー)」と「尖度(カートシス)」という概念があります。筆者の印象では歪度や尖度という表現が用いられることが多いですが、オプションではスキューという言葉が実務で用いられるため、ここではスキューとカートシスという表現を使うことにします。「スキュー」は図の左図のように金利変化が正規分布から左右にどの程度乖離するかという非対称性をとらえる指標になります。詳細な議論は統計学のテキストに譲りますが、イメージは図の左図に記載しています。横軸を価格の変化率とするならば、スキューが負(正)の時、平均からみて暴落(急騰)の方が起こりやすいことを表しています(正規分布のように左右対称であればスキューはになります)。一方、カートシスは図の右側のように正規分布からどの程度裾が厚いかを示します。具体的にはカートシスはを超えた場合、正規分布より裾が厚く(すなわち平均から大きく外れたことが起こりやすく)、を下回った場合は裾が薄いことを示します(正規分布であればカートシスはになります)。図歪度(スキュー)と歪度(カートシス)のイメージスキューは̂=(1/)∑(−̅)3=1[(1/)∑(−̅)2=1]3/2、カートシスは̂=(1/)∑(−̅)4=1[(1/)∑(−̅)2=1]2で定義されます(ここでの̅は標本平均を示しています)。株式など資産価格のリターンのカートシスは有意に3を超えることがほとんどです。ちなみに、統計パッケージソフトなどを用いて計算した場合、カートシスから3を引いた超過カートシス()が計算されることがある点に注意してください。この場合、を上回った場合、正規分布より裾が厚いことを示します。で定義されます(ここでのうな極端な現象を「ブラック・スワン」と呼んだことから、スキュー指数は「ブラック・スワン指数」と呼ばれることもあります。本稿では服部(、)で記載した内容を前提としますので、そちらの文献も適時参照いただければ幸いです。.権利行使価格との関係:スマイル・カーブとスキュー.1正規分布からの乖離:スキューとカートシス服部()では正規分布を想定するブラックモデルに基づき金利リスクについて考えてきましたが、先物価格や金利の変化が正規分布に従わない可能性について考えていきます。最初に、先物価格や金利の変化が正規分布からどのように外れているのかについてデータで確認してみましょう。金融データが正規分布からどのようにずれているかを把握する概念として、統計学には、「歪度(スキュー)」と「尖度(カートシス)」という概念があります。筆者の印象では歪度や尖度という表現が用いられることが多いですが、オプションではスキューという言葉が実務で用いられるため、ここではスキューとカートシスという表現を使うことにします。「スキュー」は図の左図のように金利変化が正規分布から左右にどの程度乖離するかという非対称性をとらえる指標になります。詳細な議論は統計学のテキストに譲りますが、イメージは図の左図に記載しています。横軸を価格の変化率とするならば、スキューが負(正)の時、平均からみて暴落(急騰)の方が起こりやすいことを表しています(正規分布のように左右対称であればスキューはになります)。一方、カートシスは図の右側のように正規分布からどの程度裾が厚いかを示します。具体的にはカートシスはを超えた場合、正規分布より裾が厚く(すなわち平均から大きく外れたことが起こりやすく)、を下回った場合は裾が薄いことを示します(正規分布であればカートシスはになります)。図歪度(スキュー)と歪度(カートシス)のイメージスキューは̂=(1/)∑(−̅)3=1[(1/)∑(−̅)2=1]3/2、カートシスは̂=(1/)∑(−̅)4=1[(1/)∑(−̅)2=1]2で定義されます(ここでの̅は標本平均を示しています)。株式など資産価格のリターンのカートシスは有意に3を超えることがほとんどです。ちなみに、統計パッケージソフトなどを用いて計算した場合、カートシスから3を引いた超過カートシス()が計算されることがある点に注意してください。この場合、を上回った場合、正規分布より裾が厚いことを示します。は標本平均を示しています)。*5) 株式などのリターンのカートシスは3を超えることがほとんどです。ちなみに、統計パッケージソフトなどを用いて計算した場合、カートシスから3を引いた超過カートシス(excess kurtosis)が計算されることがある点に注意してください。この場合、0を上回った場合、正規分布より裾が厚いことを示します。*6) 先物価格の変化や金利変化の分布が正規分布に従うかどうかについてはジャック・ベラ検定でテストすることができます。ジャック・ベラ検定の統計量はートシスを用いて国債先物の価格変化や国債の金利変化がどのよいるかについて確認しましょう。表は年以降の日次ベー債(年、年、年)のデータを用いてスキューとカートシいます(国債先物は価格の変化率、日本国債については金利の変国債先物をみると、スキューは負の値をとっていますから、表下落が起こりやすいことがわかります。また、表には国債現物載もされていますが、こちらは逆に正の値をとっています。これすいことを意味しています。債券では価格と金利が逆方向の動き債先物のデータと一貫性がある結果といえます。一方、国債先物は3を超えることがわかります。このことは先物や金利変化の部分布、すなわち、正規分布より平均から外れた事象が起こりやすす。きをみると、先物や金利の変化が正規分布から乖離していること時折市場にクラッシュが起こることで金利が急騰する(先物価格解釈できます。なお、正規分布に従っているかどうかを直接検証その手法を用いても正規分布から乖離していることを示すことが国債のスキューとカートシスの分布が正規分布に従うかどうかについてはジャック・ベラ検定でテストす・ベラ検定の統計量は=̂2/6+(̂−3)2/24であり、̂および̂を物価格の変化や金利変化を用いてジャック・ベラ検定を行うと、先物価格の従うという帰無仮説を棄却することができます。スキューが負カートシスが正カートシスが負確率(密度)先物価格(金利)の変化先物価格(金利)の変化であり、シスを用いて国債先物の価格変化や国債の金利変化がどのよるかについて確認しましょう。表は年以降の日次ベー(年、年、年)のデータを用いてスキューとカートシます(国債先物は価格の変化率、日本国債については金利の変債先物をみると、スキューは負の値をとっていますから、表落が起こりやすいことがわかります。また、表には国債現物もされていますが、こちらは逆に正の値をとっています。これことを意味しています。債券では価格と金利が逆方向の動き先物のデータと一貫性がある結果といえます。一方、国債先物を超えることがわかります。このことは先物や金利変化の部布、すなわち、正規分布より平均から外れた事象が起こりやす。みると、先物や金利の変化が正規分布から乖離していること折市場にクラッシュが起こることで金利が急騰する(先物価格釈できます。なお、正規分布に従っているかどうかを直接検証手法を用いても正規分布から乖離していることを示すことが債のスキューとカートシス布が正規分布に従うかどうかについてはジャック・ベラ検定でテストすラ検定の統計量は=̂2/6+(̂−3)2/24であり、̂および̂を格の変化や金利変化を用いてジャック・ベラ検定を行うと、先物価格のという帰無仮説を棄却することができます。スキューが負カートシスが正カートシスが負確率(密度)先物価格(金利)の変化先物価格(金利)の変化およびトシスを用いて国債先物の価格変化や国債の金利変化がどのよるかについて確認しましょう。表は年以降の日次ベー(年、年、年)のデータを用いてスキューとカートシます(国債先物は価格の変化率、日本国債については金利の変債先物をみると、スキューは負の値をとっていますから、表落が起こりやすいことがわかります。また、表には国債現物もされていますが、こちらは逆に正の値をとっています。これいことを意味しています。債券では価格と金利が逆方向の動き先物のデータと一貫性がある結果といえます。一方、国債先物3を超えることがわかります。このことは先物や金利変化の部布、すなわち、正規分布より平均から外れた事象が起こりやす。をみると、先物や金利の変化が正規分布から乖離していること折市場にクラッシュが起こることで金利が急騰する(先物価格釈できます。なお、正規分布に従っているかどうかを直接検証の手法を用いても正規分布から乖離していることを示すことが債のスキューとカートシス布が正規分布に従うかどうかについてはジャック・ベラ検定でテストすラ検定の統計量は=̂2/6+(̂−3)2/24であり、̂および̂を格の変化や金利変化を用いてジャック・ベラ検定を行うと、先物価格のという帰無仮説を棄却することができます。スキューが負カートシスが正カートシスが負確率(密度)先物価格(金利)の変化先物価格(金利)の変化を用いて定義されます。先物価格の変化や金利変化を用いてジャック・ベラ検定を行うと、先物価格の変化や金利変化が正規分布に従うという帰無仮説を棄却することができます。騰より暴落が起こりやすいことがわかります。また、表1には国債現物の金利変化のスキューの記載もされていますが、こちらは逆に正の値をとっており、金利の急騰が起こりやすいことを意味しています。債券では価格と金利が逆方向の動きをすることを考えると、国債先物のデータと一貫性がある結果といえます。一方、国債先物と国債現物のカートシスは3を超えることがわかります。このことは先物価格や金利の変化が正規分布より裾が厚い分布に従っており、正規分布より平均から外れた事象が起こりやすいことを意味しています。このようにデータの動きをみると、先物価格や金利の変化が正規分布から乖離していることが確認できますが、これは時折市場にクラッシュが起こることで金利が急騰する(先物価格が暴落する)傾向があると解釈できます。なお、先物価格や金利の変化が正規分布に従っているかどうかを直接検証する手法もありますが、その手法を用いても先物価格や金利の変化が正規分布から乖離していることを示すことができます*6。表1 国債先物および現物国債のスキューとカートシス国債先物現物国債5年金利10年金利20年金利スキュー(歪度)-0.5750.3390.4810.234カートシス(尖度)9.0198.2968.60011.504注:2000/1~2019/12の日次データを使用。先物については先物価格の変化率、現物国債については金利の変化を用いています。2.2 スマイル・カーブこのように実際の先物価格や金利の変化をみると、その動きは正規分布に基づかないことがわかります。図1 歪度(スキュー)と尖度(カートシス)のイメージスキュー>0スキュー<0スキュー=0(正規分布)カートシス>3カートシス<3カートシス=3(正規分布)確率(密度)確率(密度)先物価格(金利)の変化先物価格(金利)の変化48 ファイナンス 2020 Jul.SPOT

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