ファイナンス 2020年7月号 No.656
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を活かしていくことが求められていると論じている。■第8章「人口減少が及ぼす社会保障財源への影響」(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授)土居論文は、人口減少に直面する日本においては経済成長が低下する中での財源確保を意識することが不可欠であるとし、具体的には、人口減少に伴う世帯数の変動が社会保障財源に与える影響について、将来推計を交えながら分析している。分析の結果、2040年には、人口減少に伴う世帯数の変動によって、直近と比べて1割ほど税収(消費税、所得税、個人住民税)や社会保険料収入が減少するが、このうち消費税はその他の収入と比較して人口減少の影響を比較的受けにくいとの結果が得られている(図表9)。これは、消費税と比較して所得税、個人住民税、社会保険料の負担が現役世代に集中していることが要因として挙げられる。このことから、世代間負担が公平である消費税による財源調達や、高齢者への所得比例的な負担をはじめとした課税ベース・賦課ベースの拡大といった、人口減少の影響を受けにくい財源確保の方策を検討していくことの必要性を指摘している。■第9章「スウェーデンの経済成長と労働生産性」(上田大介 財務総研主任研究官、三角俊介 同研究員)上田・三角論文は、スウェーデンが約1,000万人の人口規模でありながらも、労働生産性の向上を明確な目標に据え、それを経済成長に結びつけてきた国であることに着目し、経済成長の源泉を探っている。スウェーデンの政策や制度を分析し、(1)産業横断的に生産性上昇率等を勘案した賃上げ率を実現することで(同一労働・同一賃金)、生産性が低い企業は市場から退出する仕組みになっていること(図表10)、(2)その中で発生した失業者に対して職業訓練や給付を積極的に行うことで人的資本の質を高め、労働力を生産性の高い産業・企業にシフトさせることが可能なこと、(3)1980年代以降の積極的な外資導入政策が生産性の高い外資企業の参入の増加に繋がり、多数のグローバル企業やスタートアップ企業を輩出する土壌となったこと、という3つの要素を挙げ、それぞれが効果的に相互補完することを通じて、高い労働生産性を維持し、強い国際競争力を得てきたと論じている。図表9 世帯主年齢階層別1世帯当たり租税負担から推計した税収(2018年=100)868890929496981001022040203920382037203620352034203320322031203020292028202720262025202420232022202120202019(年)20181世帯当たり負担額が変わらず、世帯主年齢階級別世帯数のみが変動すると仮定(出所)第8章「人口減少が及ぼす社会保障財源への影響」図表12から引用。消費税所得税個人住民税社会保険料図表10 労働生産性と賃金上昇率の推移▲4.0199619982000200220042006200820102012201420162018▲2.00.02.04.06.08.0(%)(年)(出所)第9章「スウェーデンの経済成長と労働生産性」図表6より引用。労働生産性成長率実質賃金名目賃金44 ファイナンス 2020 Jul.SPOT

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