ファイナンス 2020年7月号 No.656
45/86

■第3章「企業レベルデータに基づく日本の労働生産性に関する考察」(滝澤美帆 学習院大学経済学部教授)滝澤論文は、日本の労働生産性水準を米国との比較を通じて把握した上で、企業の財務データを分析し、労働生産性を向上させるための方策を提言している。日本の労働生産性水準は、米国と比較すると、製造業で7割程度、サービス業で5割程度にとどまっており(2017年時点)(図表4)、20年前の1997年時点と比べると特にサービス業で格差が拡大していることを明らかにしている。また、企業の財務データを分析したうえで、(1)製造業は非製造業に比して平均的に労働生産性が高い一方、非製造業は労働生産性のばらつきが相対的に大きく、さらに企業規模と労働生産性との間に正の相関が見られたことから、労働生産性が業種や企業規模に関して異質であること、(2)従業員一人当たり賃金は労働生産性と正の相関があるが、労働分配率との相関は弱いため、賃金のドライバは労働分配率の高低ではなく労働生産性の高低であることが示唆されること、(3)労働生産性を従業員一人当たり売上高と売上高付加価値比率に分解し、さらに後者を資本装備率と有形固定資産回転期間に分解したところ、従業員一人当たり売上高を介して労働生産性が資本装備率と正の相関があることが確認できたことから、高い資本蓄積の下で高い労働生産性(および従業員一人当たり売上高)を実現している企業が高賃金であるパターンがあるという結果を得て、生産性向上に向けて資本に焦点を当てた政策の重要性を指摘している。■第4章(講演録)「国運の分岐点」(デービッド・アトキンソン 株式会社小西美術工藝社代表取締役社長)アトキンソン報告は、日本は人口が減少していくため、現在のGDP550兆円を2060年にも維持するためには労働生産性を1.7倍まで引き上げる必要があると指摘している。そして、日本は潜在能力が高いにもかかわらず、給料水準が比較的低く、生産性が高くない理由を突き詰めた結果、従業員数が20人未満の小規模事業者が多く、中小企業が中堅企業に成長しておらず、企業規模が小さい企業で働いている人が多過ぎることが生産性向上を妨げていると論じている。日本の低い生産性水準を踏まえ、日本がいかに非効率な産業構造になっているのかは自明であると断じている。日本の経済再生に向けた取組みとして、企業規模を大き図表4 米国との産業別労働生産性水準の比較(2017年)128.361.427.175.479.464.060.851.032.638.546.136.658.632.343.120.62.96.513.9050100806040200日米の産業別生産性(1時間あたり付加価値)と付加価値シェア電気・ガス・水道卸売・小売縦軸:労働生産性水準(米国=100)横軸:付加価値シェア(%)一次金属・金属製品運輸・郵便輸送用機械不動産宿泊・飲食金融・保険※グレー箇所:サービス産業分野製造業全体:69.8サービス業全体:48.7石油・石炭鉱業農林水産業情報・通信専門・科学技術、業務支援サービス業その他製造業食料品建設化学その他サービス米国の生産性水準(=100)はん用・生産用・業務用機械、電子、電気機械、情報・通信機器(出所)第3章「企業レベルデータに基づく日本の労働生産性に関する考察」(滝澤美帆 学習院大学経済学部教授)図表1より引用。 ファイナンス 2020 Jul.41「人口減少と経済成長に関する研究会」の概要報告SPOT

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る