ファイナンス 2020年7月号 No.656
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■第1章(講演録)「人口、生産性、経済成長」(吉川洋 立正大学学長、財務総研名誉所長)吉川報告は、個々のミクロの最適化行動を分析してもマクロの事象をとらえることはできないと述べたうえで、生産性を上げるために最も重要なのは需要であり、供給は本質的に需要によって規定されると述べている。そして、経済成長は「需要の飽和」を打破する需要創出型イノベーションによって続いていくと指摘している(図表2)。イノベーションは結局のところ、人間の平均寿命を延ばすことに貢献してきたと論じ、超高齢社会を支えるイノベーションは当然あり得て、そのモデルを日本は構築すべきであり、それを実現するなかで生産性も上昇していくとの道筋を示している。図表2 新しい需要と経済成長のパターン天井(μ/δ)0時間t1t2t3t4財/産業に対する需要 (注)t1、t2、t3、t4、…は新しい財/産業が誕生した時点(出所)第1章(講演録)「人口、生産性、経済成長」図表6より引用。■第2章「平成年代における構造変化」(小野稔 財務総研副所長)小野論文は、人口減少下での経済成長を考えるにあたり、平成の日本経済の動向や構造変化を振り返ることを通じて日本が抱える課題を浮き彫りにした。まず、日本の現状について、総人口は減少しつづけているが、労働力人口でみると高齢者や女性、様々な資格を持つ外国人労働力の流入から就業者数は増加していると指摘している。また、産業別に生産活動を分析し、製造業は就業者数が減少したが一人当たり付加価値生産額(GDP)は上昇した一方、非製造業の中には、就業者が増加したが一人当たりGDPが低下している産業が存在することを明らかにしている(図表3)。そのうえで、人口減少下の経済成長という観点からすると、低賃金労働力の投入による成長というビジネスモデルは、産業全体としては労働生産性の低下を伴うためサステナブルとは言い難いと指摘している。図表3 一人当たりGDPと就業者数の変化(1994~2018年)農林水産業鉱業製造業電気・ガス・水道・廃棄物処理業建設業卸売・小売業運輸・郵便業宿泊・飲食サービス業情報通信業金融・保険業不動産業専門・科学技術、業務支援サービス業公務教育保健衛生・社会事業その他のサービス50403010200-10-20-30-40就業者数の増減率(%)一人当たりGDPの増減率(%)GDP総額増GDP総額減(出所)第2章「平成年代における構造変化」(小野稔 財務総研副所長)図表11より引用。-60-50-40-30-20-10010203040506070809010011012013014015019952000200520102015201840 ファイナンス 2020 Jul.SPOT

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