ファイナンス 2020年7月号 No.656
27/86

は、インフラを含むあらゆる投資プロジェクトにおいて、人々や環境に対する保護を拡大し、かつ、調達基準にValue for Moneyを導入するなど、質高の目指す方向性と合致しています。3防災2011年3月11日の東日本大震災から1年に満たない2012年10月、世銀IMF総会が日本で開催されました。日本は、ホストとして、大震災から復興する姿を世界中の関係者に見てもらう機会と位置付けました。そのメインイベントとして、被災地である仙台市に国際機関幹部や各国の閣僚を招き、「防災と開発に関する仙台会合」を開催しました。本会合には、世銀のジム・ヨン・キム総裁(当時)のほか、クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事(現欧州中央銀行総裁)、クリスタリナ・ゲオルギエワ欧州委員会委員(現IMF専務理事)、黒田東彦アジア開発銀行総裁(現日本銀行総裁)など、現在でも国際金融の要職にある方々が参加し、被災地を視察した上で、途上国開発における防災の主流化を議論しました。世銀は、仙台会合のために作成した「仙台レポート」を各国財務大臣で構成される世銀IMF合同開発委員会にも提出しました。同委員会では、世銀グループ全体として、防災を各国支援に組み入れていくことに合意しました。さらに、2013年12月に合意したIDA第17 次増資では、各国の支援方針策定やプロジェクト組成時に災害リスクを考慮し、必要に応じて対策を盛り込むことが決定しました。このように、東日本大震災をきっかけに防災に関するモメンタムが高まり、世銀は2012年以降2年に1回、防災主流化の進捗状況を世銀IMF合同開発委員会に報告しています。直近では2020年4月に報告され、2018-2019年の災害関連プロジェクトは世銀の融資・グラントのうち10.6%を占めました。1984年から2005年の災害関連プロジェクトの割合は9.4%であり、近年は10%強で安定しています。最近の特徴として、保健や運輸など様々な政策分野で災害に関する分析や防災施策が採用されており、「防災の主流化」が徐々に進んでいることが見て取れます。また、今般のIDA第19次増資の政策目標でも防災関連指標の導入が含まれています。4世銀東京オフィスの役割世銀と日本による防災や質高に関する連携を強化し、日本の知見共有を更に促進するため、世銀の東京オフィスの機能を強化し、防災や質高を専門とするスタッフが常駐しています。2014年に東京防災ハブが設立されて以降、2015年には東京開発ラーニングセンターに都市開発支援の機能を設け、さらに、2016年、質高パートナーシップ基金が設立されました。それぞれの概要について、以下で説明します。日本語の防災は文字通りに読めば「災害を防ぐ」となり、英語ではDisaster Risk Reductionと訳されることが多いです。例えば、インフラの耐震性強化などがこれに当たります。他方、防災は災害対策全般を表す広義の意味で使われることもあります。例えば、広辞苑では、防災は「災害の発生機構を明らかにし、人命および財産の安全を図ることを目的として対策を行うことの総称」とあり、「災害対策、災害防止、災害予防と同義に使用されることが多い」と解説しています。英語では、このような災害の予防、備え、対応といった包括的な対策を“Disaster Risk Management”と呼びます。以下で紹介する東京防災ハブは“Tokyo Disaster Risk Management Hub”の訳です。本稿でも、防災は広義の災害対策全般を指します。防災の重要性は、世銀だけでなく、国際連合等の多くの国際機関や関連する会議で議論されています。近年で最も重要な会議は、2015年に仙台で開催された第3回国連防災世界会議です。この会議には25名の首脳級を含む100名以上の閣僚、国際機関代表、市民団体など、計6,500人以上が本体会議に出席しました。関連事業を含めると延べ15万人以上が国内外から参加し、日本で開催された国連関係の国際会議として過去最大級と言われています(内閣府)。世銀からは当時のキム総裁が出席しました。この会議で採択された仙台防災枠組は、各国防災施策の国際的な指針となり、世銀で防災を専門とするスタッフもバイブルのように扱っています。コラム:防災とDisaster Risk Management ファイナンス 2020 Jul.23世界銀行と日本の連携 質の高いインフラ投資と防災 SPOT

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る