ファイナンス 2020年7月号 No.656
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1はじめに*1先月号では、世界銀行(世銀)グループの国際開発協会(IDA)第19次増資の概要についてご紹介しました。本稿では、IDA第19次増資の重点政策として取り上げた質の高いインフラ投資や防災に関する世銀と日本の連携に着目して主な取組をご紹介します。世銀グループは「貧困の撲滅」と「繁栄の共有」を二大目標とし、途上国への融資や技術支援等を通じて各国の政策実現を支援しています。その財源として、世銀グループの主要機関である国際復興開発銀行やIDAの増資、債券発行などとは別に、特定の支援テーマや地域を定めた信託基金を立ち上げ、各国・機関から資金を募っています。2019年時点で世銀グループ全体で976の信託基金が年間約40億ドル支出しており、特に、世銀グループの助言・分析業務の資金源の約3分の2を占めています。日本も、優先順位の高い政策に焦点を定めて世銀グループの信託基金に貢献しています。近年は、G7やG20などで日本が議長国を務めた際に重視したテーマを基に、質の高いインフラ投資、防災、国際保健、債務持続可能性などの分野で重点的に世銀と連携しています。また、このような重点分野の一部は、世銀の東京オフィスがオペレーション機能を担い、日本の官民学の専門家とともに開発支援に貢献しています。2質の高いインフラ投資日本と世銀の連携の柱の一つに質の高いインフラ投資、略して「質高(「しつたか」と読みます)」があります。2015年、日本は、ライフサイクルコスト、安全性、自然災害に対する強靭性、社会環境基準、ノウ*1) 本稿の執筆に当たり、世界銀行の宮崎成人氏、岩崎弥佳氏、竹本祥子氏、井本はる香氏、中川直光氏、野元隆章氏、原毅氏から助言をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。なお、本文中の意見については、全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではありません。ハウの移転等を重視した「質の高いインフラ投資」を推進するため、「質の高いインフラ投資パートナーシップ」を世界に向けて打ち出しました。そして、2016年のG7伊勢志摩サミットにおいて、当コンセプトを簡潔に示した伊勢志摩原則が採択されました。さらに、2019年のG20財務大臣・中央銀行総裁会議とそれに続く大阪サミットでは、伊勢志摩原則に新たな要素を加え、かつ詳細にした「質の高いインフラ投資に関する G20 原則」が承認されました。これにより、新興ドナー国を含む国際社会が協力し、持続可能な成長・開発、ライフサイクルコスト等を考慮した価格に見合った価値(Value for Money)の実現、環境・社会配慮、自然災害に対する強靭性、透明性、ガバナンス(債務持続可能性等)といったインフラ投資が考慮すべき要素を国際社会全体に普及させ、個別プロジェクトに反映・実践していくことになりました。日本が二国間支援で実施するインフラ支援には定評があり、実際に世銀スタッフとの議論でも頻繁に話題に上がります。質高は、これまで日本が国内外で当たり前のように実施してきたインフラ投資のエッセンスを国際的な原則に昇華させ、国際機関や他国と連携することでインフラ投資の質と量を確保していくことを目指しています。世銀においても、従来、投資プロジェクトの環境・社会への影響の評価・管理や、借入国における入札などについて高い基準を設け、開発成果を高める努力を重ねてきました。その上で、2012年に制度見直しに着手し、加盟国や非政府団体などとの議論を経て、2016年に新たな環境・社会フレームワーク、そして調達フレームワークを採用しました。これらの改正世界銀行と日本の連携  質の高いインフラ投資と防災世界銀行金融セクター上級専門官 濱田 秀明/国際局開発機関課課長補佐 影山 昇*122 ファイナンス 2020 Jul.SPOT

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