ファイナンス 2020年7月号 No.656
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なる収益の上積みが期待できる。こうした取組みもあり、成長資金市場は拡大基調であるものの、諸外国と比較すればいまだ投資規模は小さく、特にスタートアップ分野では差が大きい。民間銀行等は、自己資本規制やノウハウ不足、調達構造等の問題により、リスクマネーの供給を増やすには一定の制約が存在する上に、民間が投資しやすいマーケット・プラクティスが確立されている領域や市場の厚みが限られている。また、投資案件の規模や収益性の観点から民間ファンドの活動は大都市圏中心となっており、地域において新たな事業と市場を創り出す成長資金の担い手が不足している。今後も中長期の成長とイノベーションを促進し、積極的なリスクテイクを行うエクイティ・カルチャーを醸成するためには、成長資金の成功事例を積み重ねていくことが必要であり、民間の投資領域が限定的であることや地域における成長資金が不足していることなどを踏まえ、政投銀法改正によって本業務を5年間延長することが決まった。今後は、民間による投資領域拡大のために、先端技術の事業化や新産業創造、航空宇宙分野等の民間投資家になじみの薄い分野に投資を行い、民間が投資しやすい環境を作ることが期待される。さらに、地域金融機関との共同ファンドを横展開し、金融機関へのノウハウ共有や人材育成支援を推進することや、地域発のイノベーションや事業承継を契機とした経営革新など地域の新たな取組みへの後押しとなることなども期待される。また、特定投資業務が延長されたことで、新型コロナウイルス感染症により生じる新たな社会ニーズや事業をより中長期的な目線で支援することが可能となったため、「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」(図表11)に追加出資を行い、成長資金市場を下支えする十分な投資規模を確保することとした。このファンドでは、感染症の影響を受けている企業の新事業開拓や異業種連携などを対象に資本性資金等を供給することによって、サプライチェーンの再配置や5G投資、観光リノベーション投資などポストコロナ時代に対応した投資なども促進し、迅速かつ着実に回復・成長を目指すことを目的としている。図表11●「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」の拡充のスキーム国(産業投資)2,000億円(うち二次補正1,000億円)特定投資業務民間金融機関・事業者自己勘定呼び水効果等資本性資金等(エクイティ・メザニン)投融資等政投銀対象新型コロナウイルス感染症による被害や影響を受けた企業の●足下では提供できていない事業や新たな投資等の新事業開拓●異なる事業分野を有機的に連携する異業種連携 等※必要に応じて民間金融機関等との共同ファンドによる共同投資やベンチャーキャピタル等への出資も行い、様々な成長資金供給の担い手を支え、成長資金市場の縮小を防ぐ。新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド2,000億円岩手県盛岡市に本社を置くセルスペクト(株)は、血中成分の検出・測定による医療診断機器の研究・開発を行うベンチャー企業。日本政策投資銀行は、2019年3月、セルスペクト(株)の新規事業展開支援及び連携を目的に、岩手県の地場企業等が出資するのと合わせ、(株)岩手銀行と設立したいわて飛躍応援ファンドより劣後ローンを供給した。本年4月、同社は、新型コロナウイルス感染者の血液中に含まれる抗体を測定するキットを開発したと発表している。図表12●特定投資業務の資金供給例シニアローン岩手銀行LP出資岩手銀行政投銀劣後ローンLP出資資本性ローン日本政策金融公庫出資事業会社事業連携いわて飛躍応援ファンドセルスペクト(株)劣後ローンを活用した企業が新型コロナウイルス関連分野でも活躍特定投資業務の事例紹介 ファイナンス 2020 Jul.9新型コロナウイルス感染症にも素早く対応民間金融機関と協調して企業を支援する政策金融特集

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