ファイナンス 2020年7月号 No.656
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民間金融機関や事業者の 資金を成長企業に呼び込む日本経済の部門別の資金過不足を見た場合、企業部門は資金余剰となっている。企業は、資金不足を金融機関や市場からの資金調達で補いながら経営をするのが一般的だ。80年代から90年代前半はその状態にあったが、その後、資金が余り気味になり、2000年代以降は資金余剰となっている。その結果、企業の現金・預金等は18年時点で240.5兆円、内部留保は463.1兆円に達している。一方で家計部門は1980年代以降、一貫して貯蓄超過状態にある。これらの資金を成長分野に投資し、企業の活性化、日本経済の活性化を図ることが大きな課題となっている。実際に日本企業のROA(総資産収益率)やROE(総資本収益率)は、欧米企業と比較すると未だに低い水準にある。また、欧米企業と比較して、日本企業はROEのバラつきが少なく、低リスク・低リターンの傾向にあり、日本企業の新陳代謝が進んでいない可能性がある。そこで、企業の新陳代謝を国際比較してみると、日本では創業2年以内のスタートアップ企業の割合が5.9%に留まり、フランスの22.8%、英国の22.4%、米国の20.5%など諸外国と比較して低い水準にある。一方で設立から10年以上の古い企業が全体の7割超を占めている。また、日本企業は開業率や廃業率も低く、生産性の低い企業が市場に留まることで、日本企業の収益力の低下要因となっている可能性がある。これまで日本では企業部門への資金供給は、多くが融資などの貸出金が占め、18年度の1年間で見ても新規貸出が55兆円であるのに対し、株式は非公開株式、公開株式を合わせて8兆円に満たない。こうした日本企業の収益力を底上げするためには、日銀の金融政策などを背景に既に潤沢に供給されているリスクの低い既存事業・企業に対するデット・ファイナンス(融資)だけではなく、新事業開拓や異業種連携によるオープンイノベーションなど、リスクは高いものの高い収益性が見込まれる新たな市場や事業に対する質の高い成長資金となるリスクマネー供給(エクイティ・メザニン等)を行う必要がある。そんな中で政投銀は、リスクマネー供給を促進し、企業の競争力強化や地域活性化に資する成長資金市場を発展させるため、平成27年6月に特定投資業務をスタートさせた。成長資金の供給を時限的・集中的に強化することを目指して創設されたもので、令和2年3月末までに、100件7,171億円の投融資を決定。これにより誘発された民間の投融資額(呼び水効果)は約4兆円に達している。業務開始から約5年が経過し、累積損益は124億円の黒字になっており、今後、投資回収などによりさら図表10●デットとエクイティの比較リスクマネーデット(融資)メザニンエクイティ(普通株式·出資)元本・収益元本返済義務あり利息による収益⇒相対的にローリスク・ローリターン資本性ローン、劣後ローン、劣後債、優先株式等、その商品性は様々だが、デットとエクイティの中間的性質をもつ元本返済義務なし配当・譲渡益による収益⇒相対的にハイリスク・ハイリターン経営への関与なし(限定的)あり⇒コーポレートガバナンスの強化●経営・事業化のサポート●収益性の追求●「選択と集中」の促進性質負債⇒事業者のデット・エクイティ・レシオによる制約資本⇒事業者のデット・エクイティ・レシオ改善による借入余力の増加新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンドへの追加出資で成長資金市場を下支え政投銀の特定投資業務を5年延長8 ファイナンス 2020 Jul.

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