ファイナンス 2020年6月号 No.655
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私の週末料理日記その375月△日土曜日新々コロナ自粛の巣ごもりで、やることがないものだから、このところ週末は朝から1~2時間散歩することにしている。今日は家から30分ほどかけて、こじんまりした氷川神社まで出かけた。参拝すると、二宮尊徳の「今日の暮らしは昨日にあり 今日の丹誠(たんせい)は明日の暮らしとなる」という言葉が掲げてあった。まことに金言であるが、「今日の感染状況は二週前の自粛にあり」と詠みかえたくもなる今日この頃である。散歩の途中に歩いた商店街でも、飲食店は大半が休業かテイクアウト限定であり、書店もシャッターが閉まっている。商売を営んでいる方やそこで働く方たちはさぞや大変なことだろう。対策には、財政出動も必要だと思う。一方で我が国の財政状況は悲惨な状況にあり、コロナ禍以前から連年巨額の赤字を将来世代に付け回している現状だ。おじさん連のオンライン飲み会でくだ巻きながらコロナ対策を論ずるときには、「若い世代、将来世代には申し訳ないが」という前口上だけでもつけようと思う。前口上をつけたところで意味はないかもしれないが、気は心というではないか。参拝を済ませてよたよたと歩きながら、昨晩読んだ本のことを思い出す。コロナ禍で図書館が臨時休館なので、書棚をひっくり返して古い本を読むことが多い。先日「中国の歴史」(講談社)全10巻のうち何故か1~5巻が出てきた。昭和49年刊だから40数年も前の古書であるが、中国四千年の歴史の前では40年やそこらは誤差のうちに入るまいと決め込んで、このところ、テレビの時代劇を観ていないときに少しずつ読んでいる。昨晩は漢の武帝の前後を読んだ。紀元前140年に16歳で即位した武帝は、54年に及ぶ在位中に武威を四方に輝かせた。といっても武帝自身が親征したことはなかったが、対匈奴戦をはじめとする大規模な度重なる外征は、文帝・景帝の二代にわたって充実が図られた国家財政を窮乏させ、新たな財源を要することなった。そこで登場したのが、桑そう弘く羊ようらの法家思想の財務官僚たちであり、彼らによって塩鉄専売制、均輸・平準法、告こく緍びん令れい(告発奨励制度)による財産課税の強化などの財政政策が進められた。国家による塩鉄専売制(後に酒にも専売制導入)が、従来製鉄業や製塩業を営み巨利を得ていた地方の豪族の反発を招いたのは当然であるが、均輸法と平準法についても、政府が商品の買い付けや運搬を行い物価の統制を図るものであるから、大規模な商業を営んでいた地方の豪族層の利潤を減少させるものであった。財産課税の強化も、緍びん銭せんすなわち蓄蔵貨幣に対する重課税であったから、主として中規模以上の商工業者に対する課税であった。かくて実務的な法術官僚たちによる財政政策の下で、地方豪族や商工業者の不満が高まっていた。武帝の次の昭帝の代、紀元前81年に、詔勅によりいわゆる塩鉄会議が開催された。各地方から「賢良」、「文学」と称する民間有識者60余名が長安に招集され、塩鉄専売制など新財政政策を存続すべきかどうかについて、丞相車千秋、御史大夫桑弘羊ら有司(政府高官)との間で激しい論戦が戦われた。桑弘羊は武帝時代以来の新財政政策の立案施行者であり、当時の行財政の事実上の最高責任者であった。賢良たちは、「民間の疾苦するところ」を諮問されたのに対し、塩鉄専売など政府自ら民と利を争って民を本業(農業)から末業(商工業)に赴かせる政策は廃止すべきと主張した。儒家思想による農本主義を標榜しているが、彼らの廃止論が地方豪族・商工業者の利益に適うことは論を俟たない。賢良・文学の出自も地方豪族層であったろうし、また、地方豪族は、族的 ファイナンス 2020 Jun.69連載私の週末 料理日記

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