ファイナンス 2020年6月号 No.655
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国債のオークションに際し、市場参加者は価格や金利を提示することで応札するのですが、コンベンショナル方式でもダッチ方式でも、発行体からみてメリットがある札(すなわち、高い価格や低い金利で応札された札)から順番に落札していきます。オークションには発行目標額があるため、目標額に達したところまで落札し、それ未満の価格やそれを上回る金利で応札した注文は落札できないという形式を採っています。コンベンショナル方式では各々の参加者が応札した価格で購入します。一方、ダッチ方式では発行体が目標とする発行額に達する価格、すなわち落札できた応札価格の中で一番安い価格で落札者全員が購入します。コンベンショナル方式およびダッチ方式の詳細については石田・服部(2020)を参照してください。*19) 詳細は石田・服部(2020)を参照してください。3.実証研究の紹介3.1 オークション理論と実証研究の関係前節ではオークションの理論について議論してきました。前節で記載したとおり、コンベンショナル方式とダッチ方式はどちらが一方的に良いというものではなく、その良さは状況次第のケースバイケースということになります。そのため、(特殊なケースを除き)残念ながら、理論だけではどちらの方式が良いのかについては確定的に述べることはできません。一方で、上記の議論はあくまで理論的な議論に限定されていますから、実際にデータを用い、どのような仮説が成立しているかについての検証も必要になってきます。経済学の実証研究は大きく分けて誘導系と構造系の実証に分類されます。誘導系の実証とは、明示的な経済モデルに基づかず、特に変数の関係性にフォーカスすることで実証分析を行う手法になります。一方、構造系の実証(構造推定)は明示的に経済学の理論を用いて推定を行う方法です。国債のオークションの実証についていえば、2000年以前は誘導系の実証が多くなされていましたが、2000年以降は構造系の実証が増えてきています。3.2 誘導系実証の紹介誘導系の実証として特に重要な研究は、米国財務省が公表している論文(Malvey et al., 1995; Malvey and Archibald, 1998)です。米国は1992年にコンベンショナル方式からダッチ方式へ移行しています。その一つの要因は、ソロモン・ブラザーズが米国債の入札において不正な形で買占めを行ったことから、ダッチ方式というスクイーズに対して頑健な入札方法が求められたことがあります。米国ではこの制度変更に伴い、米国財務省、連邦準備制度理事会、米国証券取引委員会がオークション方式を含めた米国債市場に関する包括的な調査を実施しています*19。もっとも、米国財務省が実際にダッチ方式とコンベンショナル方式の実証分析を行っていたということも見逃すことができない事実です。米国では1992年9月から2年債と5年債について、それまでコンベンショナル方式で実施してきたオークションをダッチ方式へ変更しました。具体的な検証方法は石田・服部(2020)に譲りますが、米国財務省の論文が行っている分析は、1992年9月より前と後の期間をわけ、その前後で2年債と5年債のオークションの結果に違いがないかをみるというシンプルなものであり、同研究はダッチ方式の方が望ましいオークションである可能性を示唆しています。入札方式の移行前後で比較した研究は他にもあります。Simon (1994)は米国において1973年から1974年の半ばまではダッチ方式、1974年の半ばから1976年はコンベンショナル方式によるオークションが用いられていることに着目し、ダッチ方式をとることにより米国財務省の調達コストがおおよそ7~8ベーシス増加した可能性を指摘しています。3.3 構造推定これらの研究の問題点は、オークション方式の変更の前後で経済環境が変わってしまっているため、その前後にスプレッドの差があったとしても、それがオークション方式の違いによるものか、その他の要因の変64 ファイナンス 2020 Jun.連載日本経済を 考える

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