ファイナンス 2020年6月号 No.655
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html日本国債入門―入札(オークション)制度と学術研究の紹介―*1財務総合政策研究所客員研究員石田 良財務総合政策研究所研究員服部 孝洋シリーズ日本経済を考える1.はじめに*1オークションの歴史は古く、記録に残るだけでも紀元前500年のバビロニアまで遡ることができます。にもかかわらず、オークションの理論的分析が始まったのはウィリアム・ヴィックリー教授の1961年の論文からであり、学問分野としては高々60年ほどの歴史しかありません。もっとも、その間に当のヴィックリー教授が1996年にノーベル経済学賞を受賞した他、オークション理論の発展にも貢献したレオニード・ハーヴィッツ教授、エリック・マスキン教授、ロジャー・マイヤーソン教授が2007年にノーベル経済学賞を受賞しており、更には近年のウェブ上でのオークションの発展とも相俟って、工学など他分野との連携も深化させながら、益々注目度が増している分野となっています。日本では、財政を取り巻く厳しい状況等も反映し、年間の国債発行額がおよそ150兆円となっており、その大宗がオークションによって発行されています。日本ではいわば、最大級ともいえる規模のオークションが毎週のように行われているわけです。では、そもそもなぜ国債を発行するうえでオークションを用いるのでしょうか。歴史的に見れば、国債は必ずしもオークションによって発行されていたわけではありません。現在でも、株式や社債を始め多くの有価証券は引受方式と呼ばれる、オークション以外の方法で発行されて*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。坂井豊貴教授、植田健一准教授、財務省関係者など、本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 原文”putting licenses into the hands of those who value them most.”(Milgrom, 2004, p.4)います。国債も従来は国債募集引受団引受方式(いわゆるシ団方式)などを用いて発行されていましたが、同方式は2005年度を以って廃止となり、現在は概ねオークションにより発行されるようになっています。アメリカのアル・ゴア元副大統領がいうとおり、オークションとは、オークションに掛けられているものを最も高く評価する者を落札者とする仕組みです*2。その意味でオークションを用いて国債を発行していることは公平かつ簡明な制度を用いているとも評価できます。もっとも、公平かつ簡明とはいっても、実はオークションには様々な方式があり、方式の巧拙により結果も変わってきてしまいます。どのような方式を採用すれば日本政府や市場参加者などにとって最善なのでしょうか。本稿の目的は国債を中心としたオークションの学術研究の成果を紹介することにあります。本稿は石田・服部(2020)を要約した内容になっています。そのため、本稿の内容をより詳細に知りたい読者は同論文を参照していただければ幸いです。特に、同論文では日本国債の制度や歴史、さらにはオークション理論の学術研究について包括的にまとめております。また同論文は多くのBOXを設け、日本国債の入札に係る様々な話題についても取り上げています。参考文献についても同論文を参照していただければ幸いです。本稿の構成は以下のとおりです。2章ではオーク10158 ファイナンス 2020 Jun.連載日本経済を 考える

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