ファイナンス 2020年6月号 No.655
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コラム 海外経済の潮流128大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 広田 太志中国の輸出構造の変化中国にとって最大の輸出相手国は米国であった。しかし、足下では、その傾向に変化がみられる。その変化のきっかけとなったのが、いわゆる米中貿易摩擦である。米国・トランプ大統領は、中国が貿易により米国から不当に利益を得ているとして、2018年中に3段階に分け、総額2,500億ドル相当の中国製品に対して追加関税を発動した。その翌年、2019年9月にも、米国は1,200億ドル相当の中国製品に対して追加関税を発動した。中国も、報復措置として米国製品に対して追加関税を発動してきた。その後、2019年12月、両国政府は「第1段階の合意」に達し(正式署名は2020年1月)、19年9月に米国が発動した追加関税は半減(15%→7.5%)・同年12月に発動予定であった追加関税は発動見送りとなり、加えて中国は米国からの輸入増大を約束するなど、一定の進展がみられた。しかしながら、未だ根本的な解決には至っていない。このように、中国は、最大の輸出先であった米国において高い関税が課されることとなり、米国向けの輸出コストが増大した。ではこの間、中国は、高コストを覚悟で米国への輸出を継続していたのだろうか。そこで、対米輸出額を年次ベースでみると、貿易摩擦が始まった2018年を境に減少していることがわかる(図1)。さらに、月次ベースでみても、2018年末以降、対米輸出の減少は顕著である(図2)。しかしながら、貿易摩擦以降も、中国の輸出総額は増加を維持しており(2018年:+9.9%、2019年:+0.5%)、対米輸出が減少した分、その他の国・地域への輸出額が増加している。ここで、中国の輸出の国別シェアをみると、2017年及び2018年は1位米国・2位EU・3位ASEANであったものが、2019年には1位EU・2位米国・3位ASEANとなり、米国とEUの順位が逆転した(図3)。さらに、月次ベースでみると、対EU輸出額だけでなく、対ASEAN輸出額も、対米輸出額を追い越している月がある(図4)。これは、米中貿易摩擦が始まって以降の特徴的な動きであり、ASEANは中国の単なる「輸出先」としてだけではなく、「米国向け輸出の迂回地点」として機能しているともいわれる。そこで、米国の輸入総額におけるASEANのシェアをみると、2019年以降、上昇している(図5)。さらに、それと時期を同じくして中国の輸出総額におけるASEANのシェアが上昇・米国のシェアが減少していることがわかる(同)。2018年7月から米国による追加関税が課され始めたことを踏まえると、追加関税の回避のため、「中国→ASEAN→米国」とモノが動くようになった可能性がある。つまり、中国の対(図1)中国の対米輸出額(年次)201920182017201620152014201320122011201006,0005,0004,0003,0002,0001,000(億ドル)(出所)中国海関総署 ファイナンス 2020 Jun.53連載海外経済の 潮流

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