ファイナンス 2020年6月号 No.655
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(図表7)シェアリングエコノミーの経済活動を拡大する効果イメージ1シェアリングエコノミーの進展が経済に与える効果を定量的に把握することは、消費者同士の取引が存在することや、プラットフォーム事業者が非上場であることが多く一般的に困難であるが、定性的には供給不足の解消による消費拡大、潜在的需要が顕在化することによる消費拡大、周辺ビジネスの拡大という3種類の経路が考えられる(図表2-5-3-1)。図表2-5-3-1シェアリングエコノミーによる経済への貢献イメージ民泊サービス鍵の受け渡しサービスいつもこの時期はホテルが取れなくて行けなかったけど、民泊が取れてよかった。ホテルだと高くて行きたいと思わなかったけど、民泊で安く泊まれるなら行ってみよう。供給不足の解消による消費拡大潜在的需要が顕在化することによる消費拡大周辺ビジネスの拡大深夜にゲストが来ても起きる必要がなくなってよかった。(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)ア 供給不足の解消による消費拡大シェアリングエコノミーが進展することによって、これまで市場に出ていなかった遊休資産が市場に出ることになる。結果として、これまで明確な需要はあったものの供給が不足していた製品・サービスの供給量が増加し、プラットフォーム上で需給がマッチングされることによって、消費が増加することが期待される。例えば、長期休暇やイベント等の影響によって需要が大きく変動する宿泊業においては、ピーク時に合わせた供給量を確保することは難しい。民泊サービスが存在することによって、既存の宿泊施設で吸収しきれない需要の増加に対して対応することが可能になり、その地域全体における観光客数の増加や観光客による消費の増加が見込まれる。平成30年版 情報通信白書 第1部74よる新たなエコノミーの形成(1)(2)(3)(図表8)民泊サービスの市場規模の推移1055億円702億円1297億円01,4001,2001,0008006004002002017年2018年見込み2020年予測(億円)(図表9)カーシェアリングの車両台数と会員数の推移035,00014030,00012025,00010020,0008015,0006010,000405,00020020022003200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018(台)(年)(万人)車両台数会員数(右軸)(注)図表8の2018年の市場規模は、2018年6月に住宅宿泊事業法の施行により一時的な縮小を予測。(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)、富士経済ネットワークス「サービス産業の2020年国内市場予測調査」、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「我が国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」シェアリングエコノミーの既存産業への影響と課題・一方で、シェアリングエコノミーの拡大による新市場の創出・拡大に伴い、既存産業へ負の影響が生じる可能性がある点には留意が必要。特に、モノを所有せず、必要な時にのみ利用する習慣が一般化していけば、主に耐久財への需要が減少することが指摘されている。例えば、PwCによる試算(図表10)によれば、カーシェアリングの普及に伴う自動車保有者の減少は、2040年の世界の新車販売台数を2千万台程度押し下げるとされている。・また、既存のサービス産業に対する影響も指摘されており、民泊の普及がホテル業界に与える影響について、米Airbnbの掲載部屋数の増加が、特に低価格帯のホテルの収入に対して、負の影響を与えたという研究もある。(図表11)・このように、シェアリングエコノミーの拡大は、供給不足の解消や、潜在需要の掘り起こしによる消費の拡大といったプラスの影響をもたらすと同時に、破壊的イノベーションとしての側面を持っている。・今後もシェアリングエコノミーの拡大継続が予想される中で、経済へのプラスの効果を大きくしていくためには、既存産業の事業者とシェアリングサービス事業者の双方が、こうした経済構造の変化を受け入れながら、新たなサービスを提供し、新たな需要を生み出すかを模索していくことが重要である。(図表10)世界の新車販売台数の予測9.51613112040年(上振れケース)2040年(下振れケース)+6.5▲3.0▲2.0新興国の所得増加成長率下振れ、価格上昇等の減少要因カーシェアリングによる保有者減0181614121086422017年(千万台)(図表11) 米Airbnbの掲載部屋数が10%増加した場合のホテル収入への影響-0.39-0.31-0.20-0.07(非有意)BudgetEconomyMidpriceUpscale-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10(%)(出典)PwC「自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか」 、 Zervas, Proserpi, Byers (2016)“The Rise of the Sharing Economy:Estimating the Impact of Airbnb on the Hotel Industry”52 ファイナンス 2020 Jun.コラム 経済トレンド 72連載経済 トレンド

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