ファイナンス 2020年6月号 No.655
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前述の説明のとおり、プット・コール・パリティより「コール−プット=国債先物の損益」が成立しますが、「プット-コール=-国債先物の損益」という形にすることで、先物のショートのキャッシュ・フローを合成できます(図7がこのことを示しています。ここでもオプションのプレミアムは捨象している点に注意してください)。図7 シンセティック・ショートのイメージK国債先物の価格損益K国債先物の価格損益K国債先物の価格損益(a)国債先物のショート(b)プットの買い(c)コールの売りシンセティック・ショートは典型的には現物の国債のヘッジのために用いられます。例えば、日本銀行(1995)が指摘しているとおり、先物による売りヘッジだと、7年国債のヘッジはできますが、それ以外の年限の国債の場合、先物と完全に連動するわけではないため一定のリスクが残ります(これをベーシス・リスクといいます。なぜ国債先物と7年国債が連動しているかは服部(2020b)で説明しています)。そこでヘッジしたい国債を原資産とするプットとコールを用いることで、現物をショートした時と同じ効果を持つポジション、すなわち、国債現物のシンセティック・ショートを作ります。ここまでプット・コール・パリティについては「コール-プット=国債先物の損益」(式(1))という形で先物を使って表現しました。しかし、ここからは実際に実務で用いられる国債現物のオプションについて考えます。国債現物のシンセティック・ショートを考える場合、満期日を受渡とする現物の先渡取引を考える必要があります。服部(2020b)で強調したとおり、先物とフォワード(先渡)は本質的に同じ取引であり、違いは店頭で取引されるか、取引所で取引されるかという制度的な違いによるものです。ですから、「国債先物の損益」を「(国債現物の)フォワードの損益」と読み替えることが可能であり、(1)をベースに、下記を導出することができます。プット-コール=―(国債現物の)フォワードの損益(2)この場合、フォワードの損益は満期時点において「満期時点価格-権利行使価格」であることを考えると、「プット-コール=―(満期時点価格-権利行使価格)」が得られますが、これを現時点で評価すると下記が成立します。プット-コール=―(スポット価格-権利行使価格の現在価値)(3)実際にシンセティック・ショートをするにあたっては、投資家は自らが求める権利行使価格を定める必要がありますが、実務的には権利行使価格をスポット価格とするケースがほとんどです*24。そこで、*24) その一因として、取引する際、すぐにフォワードを計算することが必ずしも容易ではないことなどが挙げられます。 ファイナンス 2020 Jun.47国債先物オプション入門SPOT

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