ファイナンス 2020年6月号 No.655
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ト・オプションの価格が得られます。これがプット・コール・パリティを用いた簡易的なITMのオプションのプライシングのイメージです(正確な計算には金利の調整などが必要です*20)。*20) 正確には満期時点ではなく、現時点で考えるため、行使価格を現在価値にするなど、金利の調整が必要ですが、ここでは直感を得るため簡易的に計算しています。正確な定義はハル(2016)の11章などを参照してください。*21) 日本銀行(1995)は「相場の先行き見通しはそれほど強気ではないため、債券を単純に購入するのは避けたいが、相場急落もないとみているときに投資利回りアップのために実施される」(p.74)と説明されています。*22) 日本銀行(1995)は「今後相場が上伸した局面で、保有している現物を売却することを前提として、時価よりも高い水準に行使価格を設定したコール・オプションを売却する手法」(p.74)と説明しています。*23) 日本銀行(1995)は「投資家がある債券を「押し目買い」したいと考えた場合に、単に買い指値を入れて「押し目待ち」をするのではなく、自分の買い入れたい水準に行使価格を設定したプットを売却することで、獲得プレミアム分だけ投資利回りを向上させることを狙うもの」(p.75)としています。4おわりに本稿では、日本国債先物オプションを事例に、服部(2020c)より少し実務的な話をしました。OTMのオプションやプット・コール・パリティの知識は、ボラティリティ・スマイルなどを考えるうえで必須となります。次回は本稿で説明した内容を前提にボラティリティ・スマイルとスキューについて考えていきます。BOX 1 日本国債現物オプションこれまで国債先物オプションについて説明してきましたが、日本国債現物のオプションも流動性は相対的に低いものの、取引はなされています。日本国債現物のオプションとは、たとえば1週間後に10年国債を100円で売買する権利の取引です。日本国債現物のオプションはオプション単体で取引されることもありますが、日本国債とセットで売買されることも少なくありません。例えば、国債のコール・オプションの売却と同時に国債をロングするといった形で取引されます(このような取引をバイライト*21といいます)。日本国債現物のオプションを用いた戦略については、これ以外にも、カバード・コール(OTMのコール売り)*22、ターゲット・バイイング(OTMのプット売り)*23、シンセティック・ショートなどの戦略が用いられます。これらの詳細は日本銀行(1995)や佐藤(2013)などをご参照ください(シンセティック・ショートについてはBOX 2を参照してください)。国債など債券市場では証券会社が在庫を持ちプライスを出すことで市場を作っており、これを相対市場(店頭市場)といいますが、国債現物のオプションについても店頭市場で取引されています。証券会社には日本国債のオプションを担当しているオプショントレーダーが存在し、彼らがプライスを提示することで市場が形成されています。BOX 2 プット・コール・パリティとシンセティック・ショート実務でプット・コール・パリティの考え方が活かされる場面として、その他にもシンセティック・ショートが挙げられます。この取引が面白い点は、通常のオプションであればオプション特有のリスク量が残るところ、プット・コール・パリティが存在するため、原資産(国債現物や国債先物など)のショートの機能だけが残る点です。一般的に、シンセティック・オプションとは、例えば国債現物や先物のオプションを組みわせることで疑似的に現物や先物のロングやショートのポジションを作ることであり、ロングのポジションをシンセティック・ロング、ショートのポジションをシンセティック・ショートといいます。ここでは国債のヘッジなどで用いられるシンセティック・ショートを取り上げます。46 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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