ファイナンス 2020年6月号 No.655
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この式を少し変形して、「コール=プット+国債先物の損益」としてみれば、コールは、プットに先物の損益を調整したものとして解釈できます。このことは、コールの買いもプットの買いも似たエコノミーを有するということです。実際、次回取り上げるボラティリティ・スマイルやスキューでは、コールとプットを区別せず一つの図で表現します。3.2 注意点まず注意しなければいけない点は、プット・コール・パリティは権利行使価格と満期がプットとコールで等しい場合に成立することです。図5には権利行使価格Kが表示されていますが、国債先物ロングの損益をプットとコールに分解するためには権利行使価格が一緒でなければいけないことはこの図からも明らかです。また、図5は満期時点での損益を比較していますから、先物およびコール・プットの満期が一致していなければプット・コール・パリティは成立しないことも理解できます。一方、行使価格と満期が一致していれば、プット・コール・パリティはOTMとITMのオプションについても成立します*16。図6は図5で図示したプットの売りとコールの買いの権利行使価格をずらした図表です(権利行使価格を(F-K)分だけ下げています)。この場合、先物価格(F)が権利行使価格(K)を下回るため、(i) プットはOTM、(ii)コールはITMにな*16) プットとコールの時間的価値は必ずしも一致しない点に注意してください。たとえば、プットとコールのセータは金利がゼロの時は一致しますが、それ以外では一致しません。詳細はハル(2016)や佐藤(2013)をご覧ください。*17) これは、例えば、現在の先物価格が150円であるにもかかわらず、149円で先物を買うような契約です。実際の取引では買い手は当初その差額の1円を売り手に支払うことで取引が成立します。*18) このような状況が起きる例として、自分がオプションを買った時はOTMだったものの、その後先物価格の変動によりITMに変わることなどがあります。*19) このようにITMのオプションの価格が板で見られないことは頻繁に起こりますし、仮に掲載されていてもビットとアスクのどちらかしかない、あるいは、ビットとアスクが大きいなど判断が難しいことが少なくありません。ります。この場合でも、図6の(iii)のような形でやはり先物のロングのポジションを複製することは可能です。この図をみると、(iii)は先物の損益になりますから、「コール-プット=先物の損益」が成立することには変わりありません*17。プット・コール・パリティは実務的には次のような場面で用いられます。例えば、読者が153.5円のプット・オプションを保有しており、このオプションの適切な価格を評価したいとしましょう。現在の先物価格は先ほどと同様152.5円とすれば、これはITMのプット・オプションですが*18、図1をみると、このプット・オプションのプライスは提示されていません。これは前述のとおり、ITMのオプションは流動性が低いためです*19。しかし、153.5円の行使価格のオプションについては、OTMであるコール・オプションであれば15銭というプライスが表示されています。そのためプット・コール・パリティの関係を利用すれば、流動性のあるOTMのコールのプライスから、ITMのプットのプライスを算出することができます。前述のとおり、満期時点において「コール−プット=先物の損益」ですが、先物の満期時点の損益は「先物価格-行使価格」ですから、「コール−プット=先物価格-行使価格」が得られます。「プット=コール-先物価格+行使価格」を考えれば、「コール(0.15円)-先物の価格(152.5円)+行使価格(153.5円)」を計算することで、1.15円というITMのプッ図6 プット・コール・パリティのイメージ図5のプットとコールの損益この場合、スポット価格では、「F-K」分の利益が出ている。国債先物の価格損益国債先物の価格損益KF国債先物の価格損益(i)OTMプットの売り(ii)ITMコールの買い(iii)国債先物のロングKFKF ファイナンス 2020 Jun.45国債先物オプション入門SPOT

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