ファイナンス 2020年6月号 No.655
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けですから、市場にこういうオプションのニーズは少ないといえます。実際、ITMのオプションはほとんど売買されていません*10。図3を見ていただくと、ITMのプット・オプションの価格は高くなることが確認できます。例えば、153円のプット・オプションの価格には62銭のプレミアムが付されています。現時点の先物価格が152.5円ですから、読者がこのオプションを持っていた場合、今すぐ権利行使することで利益を得られますから、権利行使できる確率が高いオプションには高いプレミアムが付されていると解釈できます。一方、図3をみると、OTMのオプションは5~13銭といった価格が付されており、ITMのオプションに比べ低い価格であることが確認できます。実際に、建玉をみても、OTMのオプションの方が取引されていることがわかります。図3をみると、OTMのオプションについては、152円のオプションの建玉は2,500枚、151.5円は300枚という形で取引が成立しています。一方、ITMのオプションについては、153円のオプションは245枚であり、それ以上の価格では取引がなされていません。ちなみに、服部(2020b)で日本国債の恐怖指数に相当する日本国債VIXを紹介しましたが、日本国債VIXはOTMのオプションから計算されています*11。これは流動性が高いオプションの価格データを使うことで指数を構築していると解釈することができます。2.4 本源的価値と時間的価値図3には本源的価値(イントリンシック・バリュー)*12と時間的価値(タイム・バリュー)も記載されています。本源的価値とは、現在権利行使した場合の利益になります。一方、オプションには本源的価値以外に、時間的価値も存在します。国債先物は将来変動しますが、オプションを買うことで損失を限定することができることを考えると、オプションの買い手*10) たとえ、ITMのオプションに建玉があったとしても、当該オプションがかつてOTMであった時に取引がなされ、その後市場の変化によりITMになっている可能性などが考えられます。*11) 詳細はJPXのウェブサイトを参照してください。*12) 書籍によっては本質的価値と記載するものもあります。*13) 分散は時間のルートに比例するため、時間の経過とともにオプションのプレミアムが上がると解釈することもできます。*14) オプションは保有しているだけで時間価値が減っていくため、オプションの保有者は時間の経過とともに損失を計上する傾向があります。このリスクをセータといいます。厳密にはオプション価格を時間で微分することで定義されます(オプションの価値をV、時間をtとするとセータは θ=∂V∂t)。*15) ATMから乖離すればするほど行使する確率が下がるため、時間が経過することから得られるプレミアムは低下します。は時間が長くなれば長くなるほどそのメリットを享受できる確率が上がるといえます*13。そのため、オプションの価値は時間が長くなるほど高くなる傾向があり、これを時間的価値といいます*14。図3を用いて、本源的価値と時間的価値を実際の数値例で確認しましょう。再び図3における153円のプット・オプションをみると、このオプションには62銭の価格が付されています。読者がこのオプションを持っていた場合、現在の先物価格が152.5円であることを考えると、今152.5円で先物を市場で買ってきて、このオプションを行使して153円で売ればいいわけですから50銭の利益が得られます。これが本源的価値です。一方、このオプションには62銭の価格が付されていますが、本源的価値である50銭を超えた12銭分が時間的価値になります。このようにITMのオプションの価格は本源的価値と時間的価値に分解できます。OTMの場合、今すぐ行使しても利益がでないため、本源的価値は0です。そのため、OTMのオプションの価格は時間的価値になります。図2にプット・オプションの損益図を記載しましたが、これは満期時にオプションを行使した時の損益を考えていました。その意味で図2は本源的価値のみを示していたといえます。オプションの価格にはこれに時間的価値が加わるため、時間的価値を含めると図4ように修正されます。図4はATMのところで時間的価値が最も大きく、ATMから離れると次第に時間価値が小さくなること*15、また、OTMのオプションについては時間的価値のみがある点に注意してください。3プット・コール・パリティ3.1  先物の損益をプットとコールに分解これまで主にプット・オプションを事例にオプションの基本事項について確認してきました。ここから「プット・コール・パリティ」について説明しますが、 ファイナンス 2020 Jun.43国債先物オプション入門SPOT

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