ファイナンス 2020年6月号 No.655
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ようなエコノミーを図2のような形で示します。縦軸はオプションの買い手の損益であり、横軸は先物価格になります。権利行使価格が152円であるプット・オプションは、先物価格が152円を下回る場合、価格が下がれば下がるほど152円で売却する権利から得られる利益が増えます。一方、先物価格が152円を上回った場合、このオプションは行使されないため利益はゼロです(実際にはこのオプションを買うにはコストがかかるため、オプション料が一定のコストとして認識されますがここでは捨象しています)。注意してほしいことは、これはオプションの買い手の利益を示しているということです。オプションの売り手はこの逆側のポジションをとることになるため、売り手の損益はこの図を上下逆にしたものになります。すなわち、オプションの買い手の損失は最悪なシナリオでも(ここで捨象している)オプション価格の負担で済みますが、売り手の場合、どこまでも損をする可能性がある点に注意が必要です。2.3  流動性が高いオプションはアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)これまで権利行使価格が152円のプット・オプションを中心に考えましたが、その他の権利行使価格の先物オプションも上場されています。図3は図1におけるプット・オプションにフォーカスしたものです。例えば、151.5円や151円を権利行使価格とするオプションなど、現在の先物価格である152円より低い権利行使価格のプット・オプションも上場しています。これらのオプションは、市場価格より低い価格で売却する権利であるため、オプションの保有者が現時点でこの権利を行使するメリットがありません。見方を変えれば、これらのオプションは、オプションの所有者が権利行使をした場合、利益が出ない状態といえます。このようなオプションを「アウト・オブ・ザ・マネー(Out of The Money, OTM)」のオプションといいます。一方、153円など現在の先物価格より高い権利行使価格のプット・オプションも上場しています。現時点の先物価格は152.5円ですから、これらのオプションは現時点で行使しても利益がでます。このように権利を行使した際利益が出るオプションを「イン・ザ・マネー(In The Money, ITM)」といいます。オプションの実務ではOTMやITMのコールやプットという表現が頻繁に出てくるため、ひとまずこの用語に慣れる必要があります。図3 日本国債先物のプット・オプション権利行使価格権利行使価格と先物価格の差ATM/OTM/ITM価格(円)本源的価値時間的価値建玉151.0△1.5OTM0.0500.05200151.5△1.0OTM0.1300.05300152.0△0.5OTM0.2100.212,500152.50.0ATM0.2800.281,500153.00.5ITM0.620.50.1245筆者が特に強調したい点は実際に取引されているオプションはOTMのオプションである点です。オプションの本質的なニーズは保険的機能にあり、これは現在低いコストを負担することで確率は低いものの発生したら損失の大きい出来事の保証を受けることを意味します。OTMのオプションは購入時点では権利行使する価値はありませんが、将来悪いシナリオが起こった場合に保証する役割を果たします。また現在行使して利益が出ないという意味でこのオプションは権利行使する可能性が低く、オプション料を低く抑えることができます。その一方、そもそもITMのオプションは保険としての機能を果たしていません。ITMのオプションは現時点で行使しても利益が出ますし、オプションを売る側からすれば、ほぼ権利が行使されるため、高い価格を求めることになります。買い手の立場からすれば、ほぼ権利行使されるオプションを高い価格で買うのであれば、国債先物自体を買えばよいわ図2 プット・オプションの損益図国債先物の価格損益152円(=権利行使価格)権利行使価格以上に価格が低下した場合、実際の市場価格より高い価格で先物を売ることができるため、利益が生まれる。42 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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