ファイナンス 2020年6月号 No.655
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1はじめに*1服部(2020c)では国債先物オプションにフォーカスして、オプションから算出される金利リスク量について議論をしました。本稿では国債先物オプションを中心に債券オプションについて実務的に必要な知識を整理します。オプションの書籍はこれまでに大量に出版されていますが、その多くは数理モデルの説明が中心です。また、テキストで用いられる例は株式や為替であることが多く、債券市場に携わる実務家がオプションを勉強するうえで適切な文献が十分とは言えない状況が続いています。実際、筆者は大学でオプションを勉強した後、実務でオプションに触れたわけですが、その両者に一定の乖離があると感じたことは少なくありません。そこで可能な限り、債券の事例を用いながら実務的な観点でオプションについて考えていきます。本稿ではまずはオプションの基本であるプット・オプションとコール・オプションの説明をします。後述するとおり、プット・オプションは価格下落(金利上昇)*2の保険である一方、コール・オプションは価格上昇(金利低下)の保険と解釈できます。金利リスクについては、特に金利急騰時に話題になることから、本稿ではプット・オプションを用いた事例を紹介します。また、プット・オプションとコール・オプションは「プット・コール・パリティ」という関係を有しますが、これは実務的にも非常に重要な考え方といえます。そこで、本稿ではプット・コール・パリティの考え方を紹介するとともに、実際の国債市場でどのようにこの考え方が活用されているかについて紹介しま*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。財務省や日本取引所グループ等、本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 債券価格と金利(調達コスト)は逆の動きをします。債券(固定利付債)の場合、クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから、価格が上昇すると、その債券のリターン(金利)は低下します。*3) 例えば、Bloombergのオプション・モニター(JBA Comdty OMON)を使えば、現在の板情報を得ることができます。す。なお、本稿では基本的には服部(2020c)の内容を前提とするため、服部(2020c)も参照いただければ幸いです。2オプションの基本概念の整理2.1  コール・オプションとプット・オプションオプションは国債先物などを一定の価格で売買する権利を指しますが、買う権利と売る権利でそれぞれコール・オプションとプット・オプションという異なる名称が付されています。コール・オプションは例えば事前に定められた一定の価格で国債先物を買う権利になります。このオプションの購入者は国債先物が上昇した際、権利行使することで利益を得られますから、コール・オプションは価格が上がったときの保険として機能します。一方、プット・オプションは一定の価格で国債先物を売却する権利ですから、このオプションの購入者は国債先物の価格が低下した場合に行使することで利益を得ることができます。そのため、プット・オプションは価格が下がったときの保険として機能します。日本国債先物オプションに関しては、コール・オプションとプット・オプションがそれぞれ上場しています。図1は日本国債先物オプションについて、2020年における一時点のコール・オプションとプット・オプションの情報が表示されています(図1が国債先物オプションの板のイメージになります)*3。縦軸に権利行使価格があり、横軸にはオプションの価格(プレミアム)、(その価格をベースにした)インプライド・ボラ国債先物オプション入門-プット・コール・パリティを中心に―財務総合政策研究所研究員 服部 孝洋*140 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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