ファイナンス 2020年6月号 No.655
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言う時、「サラマー」(Salama)と言っている。タガログ語で「ありがとう」のことを「Salamat」と言い、発音も極めて似ている。意味は若干違うが、いずれも挨拶の言葉である。フィリピンとマダガスカルは起源を1つにするのではないかというのが無謀な直観だったが、それは当たりだった。マダガスカルは大きな島だが、8800万年前にインドあたりの大陸から分かれて大移動したらしい。従って生態的にはアフリカよりアジアに近い。更に、民族的には、紀元前5世紀あたりにボルネオ島から移住してきた人たちが今のマダガスカル人の祖先だという。言語はマレー語に近く、マレー語と近似性の強いタガログ語と語彙が近いのも頷ける。言葉はアジア産、しかしFire Treeは逆にマダガスカル原産と言うから驚く。自分はマニラの部屋の窓から毎日マダガスカル原産の花を見ていたのか、と不思議な気分になる。そして、今はこのアフリカ大陸沖の島で、久しぶりに夏のマニラを歩く幸せな気持ちに浸れるのだ。(2)飛行機の中で(日本の映画)出張の時に乗る飛行機の中では、行きは会議資料読み、帰りは出張報告の作成か寝るかで、映画はほとんど見ない。しかし、1つ例外がある。「君の名は。」は上映リストに載っていた時は常に見ていた。内容もさることながら、エイゴの字幕が秀逸である。何しろ映画の挿入歌全てにも英訳が付く。「pre-pre-previous life」という字幕には恐れ入った。セリフも、「うぬぼれんといて」はDo not be full of yourself, 「お姉ちゃん今日はやばいわ」はShe lost it. こういう「切れる」エイゴが次々に出る。これは良いという表現は書き留めておいたので、私の英単語帳は「どうせ、もしもの妄想やろ」「この町、濃すぎるし」「来世はイケメン男子にして下さい」等の日常生活で使うことが考えられないフレーズで一杯である。この字幕のお蔭か、この映画は各国の乗客に好評のようで、シンガポール航空でもトルコ航空でも見ることが出来た。最も新鮮な驚きを感じたのは2018年秋にアフリカに向かう仏系航空会社の機内での映画である。私は、往路ということもあり、ひたすら書類を読んでいた。私は、横に2-2-2の座席配列の左から3つ目の通路側に座っていたのだが、通路を挟んだ左側のアフリカ人乗客(大男)が人目もはばからず涙を流し始めたのが目に入り、仕事どころではなくなった。ちらちら横目で見ると、彼のモニターでやっている映画は「Shoplifters」。安藤サクラさんが出ている。ああ、万引き家族のことか、と納得したその瞬間、私の右隣りの大男も泣き始めた。こっちは本当に距離が近い。肩をわなわなさせて泣いている。やはり同じ映画だ。要するに、2人の現地系の大男の乗客が、映画を見ていない日本人を挟んで、日本の映画を見て感動して同時に泣いているのである。何故か非常に肩身が狭い。しかしどうしてここでこの映画が?と思って機内誌の映画リストを見て、合点が行った。「万引き家族」はカンヌ映画祭の最高賞のパルム・ドールを獲得したので、この機内の最高お薦め映画だったのである。この2人はこのお薦めに大いに満足したに違いない。日本人として深い幸せと誇りを感じ、今更ながら冒頭15分だけ見たが時すでに遅く着陸が近づいてきた。帰りの機中で精神を集中させて見ようと思ったが、仕事と時差でくたびれ果てて熟睡してしまった。結局今日に至るまで最初の15分しか見ていない。いったい彼らがどこで泣いたのか、まだ謎のままである。是枝監督、本当に申し訳ありません。3お国、違うので以下は、同じエイゴという言葉をしゃべるのにどうしてこんなにエイゴ表現について複雑怪奇な地域間相違が生ずるのか、という話である。またもやADBの元同僚が登場するが、それはここで全く本質的な問題ではない。ADBのとあるオーストラリア人幹部は、毎日平均2回「Call a spade a spade !」と言う。これはコピペのミスではなく、「スペードをスペードと呼ぶ」ということである。多分初めての人にはそれでも何を言っているのか分からないと思う。一種の英語のことわざで、「言いたいことを率直にそのまま言う」という意味で使われる。「スペード」とは鋤(スキ、土を掘り起こすのに使うもの)のことである。ところが。ある日、ADBで、当時の部下の米国テキサス州出身の大男にこの話をしたら、本当に顔が青ざめてき38 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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