ファイナンス 2020年6月号 No.655
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エイゴという同じ言葉を話す人たちの間でも、住み育った場所が違えば文化も生活も考え方も違うのは当然というのは、感覚的には分かっていた。しかしここ数年のいくつかの出来事により、まだまだ私の見方が浅かったことを自覚した。最近私が驚愕した出来事を淡々と以下記すこととする。1お国、違えば(1)インドで先月の続きという訳ではないが、冒頭またもやADB(アジア開発銀行)スタッフの話である。今回は幹部M氏に登場してもらう。最近のCOVID-19の感染拡大により、ADB職員は基本的に自宅勤務となり、M氏も故郷のインド(デリー北方)の実家からの勤務となっていた。ある日彼から電話があって、「外に出れないのは辛い」「ヒマラヤは見えるかい?」「いつもは見えないヒマラヤが、今は青空の向こうに綺麗に見えるよー」といった四方山話をしていた時、つい軽い調子で、聞いた。「人通りが減った英国では、野生のヤギが街に出てきているってニュースで見たけど、インドだと孔雀でも出てくるかい?」答えは、予想外だった。あくまでも落ち着いた風に、多分微笑みを浮かべながら、彼は言った。「実は今、俺の庭で」ここで息を吸った。「タイガーがうろうろしている。」と、虎?「森から出てきたんだろう。いやー、危ない危ない。ははははは。」彼の余りの落ち着きぶりに、こちらが冷静さを失った。「それは、た、確かに、危ないなあ」と陳腐なことを言い、更に「窓に、カギはかけたのか」と余計なお世話を続けた。そして、少しは気の利いたことを言おうと思って、「と、虎は、ウイルスよりも危ないじゃないか」と、比較不可能な2つを較べてしまった。それから数日が過ぎ、こちらから様子を聞いた。「あの後、虎はどうなった?」「結局森林警備隊に頼んで、麻酔銃を使って捕獲してもらった。希少動物なので、殺してはいけない。森に戻した後、まだこの家には顔を出さないよ。」そうか。タイガーウッズという人がいるが、虎は森に戻るのだな、と思っていた。この原稿を書くにあたり、写真を送ってもらって、虎の姿を拝ませてもらった。違うぞこれは。どう見てもトラでは無い。ヒョウだ。M氏に即時指摘した。彼は言った。「いやー、あの時は慌てていたので気づかなかったが、確かにヒョウかもしれないな。ははははは。」あの時は、全く慌てているようには見えなかったが。生活は人を変える。トラとヒョウの差に無頓着になるのも分かる気もする。同じネコ科ヒョウ属だそうで、差は紙一重(?)。まあいいか。(2)南アフリカで昨年12月、マダガスカルに出張の用務があり、往路ヨハネスブルク(南アフリカ)で飛行機を乗り換えた。南アフリカの空港に来れば、ラグビーワールドカップ優勝チームのシャツを買わねばならない。同行の仲間を全て置いて、単身土産物系シャツ屋に飛び込んだ。あった。例の緑と黄色の公式シャツが、一杯ある。ところが。どうもサイズが見慣れない。最初のは3XL。隣が新・エイゴは、辛いよ。大矢 俊雄―第二回 異国でのびっくり編―36 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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