ファイナンス 2020年6月号 No.655
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3アイヌ政策について(1)近年のアイヌ政策の経緯政府は、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化を継承する基盤が失われつつある状況を踏まえ、平成9年に制定されたアイヌ文化振興法に基づき、アイヌ文化の振興等を図るための施策を進めてきました。また、これに加え、北海道庁を中心として、アイヌの人々の生活向上に関する施策が実施されてきました。一方で、平成19年には国連総会において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されるなど、先住民族への配慮を求める国際的な要請が高まり、平成20年には衆参両院の本会議において「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で採択されました。これを受け、政府は、アイヌの人々が先住民族であるとの認識の下に、これまでのアイヌ政策を更に推進し、総合的な施策の確立に取り組む旨の内閣官房長官談話を発表しました。この談話に基づき、同年7月に内閣官房長官の私的懇談会として「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が設置され、平成21年7月、同懇談会は、アイヌの人々が先住民族であるとの認識に基づいてアイヌ政策を展開していくべきであることなどを提言する報告書を取りまとめました。また、平成22年からは、内閣官房長官を座長とするアイヌ政策推進会議が開催され、アイヌ政策に関する検討が進められました。平成26年6月には、「アイヌ文化の復興等を促進するための民族共生象徴空間の整備及び管理運営に関する基本方針について」が閣議決定され、政府においては、北海道白老郡白老町にアイヌ文化の復興等に関するナショナルセンターとして、「民族共生象徴空間」の整備を進めてきたところであり、令和2年4月に予定された一般公開に向けた措置が必要となっていました。こうした中、アイヌの人々からは、自立的・安定的なアイヌ文化の振興を可能とするための環境の整備を求める声が上がっており、そうした環境整備のためには、従来の文化振興や福祉政策に加え、地域振興、産業振興、観光振興を含めた施策を総合的かつ継続的に実施していくことが必要とされていました。上記のような背景の下、平成31年2月、アイヌ施策推進法案が国会に提出され、4月19日に成立し、5月24日に施行されました。なお、これに伴い、アイヌ文化振興法は廃止されています。(2)アイヌ施策推進法ア 総論アイヌ施策推進法は、アイヌの人々について、「日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族」との認識を示した上で、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的としています。このため、従来の文化振興や福祉政策に加え、地域振興、産業振興、観光振興を含めた幅広い施策を総合的に実施することとしています。また、アイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないことを規定しています。そのため、教育活動等を通じてアイヌの歴史や文化の魅力について国民の理解を深めることとしています。イ 基本方針政府は、アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針(基本方針)を定めることとされ、次の一から五に掲げる事項を定めるものとされています。一 アイヌ施策の意義及び目標に関する事項二 政府が実施すべきアイヌ施策に関する基本的な方針三 民族共生象徴空間構成施設の管理に関する基本的な事項四 地域計画の認定に関する基本的な事項五 その他アイヌ施策の推進のために必要な事項近年のアイヌ政策年表平成 9年アイヌ文化振興法制定(北海道旧土人保護法(明治32年制定)廃止)平成19年 9月「先住民族の権利に関する国連宣言」 ※法的拘束力なし平成20年 6月衆参両院において、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を全会一致で採択同日内閣官房長官談話(「アイヌの人々が先住民族であるとの認識」及び「有識者懇談会の設置」)平成21年 7月「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」がアイヌ文化復興のための「象徴空間の整備」を提言 ※法制定についての検討も求める平成26年 6月「象徴空間の整備・管理運営に関する基本方針」を閣議決定平成31年 4月「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」の成立(5月施行)22 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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