ファイナンス 2020年6月号 No.655
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1はじめにファイナンスの読者の皆さま、「アイヌ」についてどの程度ご存じでしょうか。近年、野田サトルさんの漫画「ゴールデンカムイ」が累計1,200万部を突破するなど若い方々を中心に人気となり、また、今年に入り、川越宗一さんの歴史小説「熱源」が直木賞を受賞するなど、様々な角度からアイヌに関心が高まってきています。政府のアイヌ政策については、昨年(平成31年)4月に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(平成31年法律第16号。以下「アイヌ施策推進法」という。)が新法として成立し、本年はアイヌ文化の復興・発展のナショナルセンターとして「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が北海道白老町に開業するなど、歴史的にみても大きな新しい局面を迎えています。本稿では、こうした近年のアイヌ政策について説明するとともに、ウポポイの概要とその魅力についてご紹介したいと思います。2アイヌの人々についてアイヌの人々は、日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族です。(この点については、今般のアイヌ施策推進法において、「日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人々」と法律上も明記されたところです。)北海道庁が実施した「北海道アイヌ生活実態調査」(平成29年)によれば、道内の市町村が把握できたアイヌの人々の数は13,118名となっています。これは調査に協力したアイヌの人々の数であり、実際のアイヌの人々の数はこれよりも多いものと考えられます。また、人数は把握できていませんが、関東をはじめとする道外へと生活基盤を移したアイヌの人々も多いと言われています。(1)ことばアイヌの人々は、独自の言語であるアイヌ語を使用してきました。アイヌ語は文字を持たず、口承されてきた言語です。アイヌ語を話すことができる人の数は減少を続けており、平成21年には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)において消滅危機言語として「極めて深刻」として登録されています。他方、北海道の地名の多くはアイヌ語に由来しており、例えば「札幌」は、アイヌ語で「乾いた大きな川」を意味する「サッ・ポロ・ペッ」に由来すると言われています。また動物の「トナカイ」や魚の「シシャモ」もアイヌ語であり、私たちの身近でもアイヌ語由来のことばが使われていることが分かります。(2)信仰アイヌの人々は、自然や動物、植物、道具など、人間を取り巻く全ての事物に魂が宿ると考えました。中でも、とりわけ人間に多くの恵みをもたらすものや、人間がかなわないような強大な力を持つものをカムイ(神)として敬いました。例えばアペフチカムイと呼ばれる火の神は、家の中のいろりに住まう、もっとも身近なカムイです。(3)住まいアイヌの人々は、食べ物や飲み物が得やすく、災害を避けることができる川や海に沿う場所を選び、数軒から数十軒の家(チセ)が立ち並ぶコタンと呼ばれる集落を形成していました。当時のアイヌの人々は、村おさを中心に、コタンの周りの山や川、海での狩りや漁、農耕、植物採集等によって生活を営んでいましアイヌ政策の現状と「民族共生象徴空間(ウポポイ)」の開業について内閣官房アイヌ総合政策室長 内閣府アイヌ施策推進室長(国土交通省 政策統括官) 刀禰 俊哉20 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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