ファイナンス 2020年6月号 No.655
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新型コロナウィルスへの対応に世界各国で難しい試行錯誤が続いている。そのような中、シンガポールとフランスの調査機関は、各国における自国の対応の評価で日本が最下位だったとの調査結果を公表した(時事、2020.5.8)。コロナウィルスによる人口一人当たりの死亡者数で世界最低水準、欧米の100分の1程度、韓国やシンガポールと同程度なのにそのような結果だった。新型コロナウィルスへの対応の違いの背景には、わが国と諸外国におけるリーダーシップの在り方の違いがある。財政は、危機対応時のリーダーシップを支える重要な柱であると同時に、いざ財政危機となれば強力なリーダーシップが求められる。財政を考えるにあたっては、リーダーシップの在り方を理解しておくことは必要なことといえよう。本稿は、そのような問題意識から、危機対応と財政について考察してみたものである。元々は、筆者が、主計局の調査課長時代にとりまとめた論稿で、適宜リバイズしているが、必ずしも最新の情報をフォーローできていない。財務省の出向者に調査依頼を行えた当時とは異なる筆者の現状に照らしてお許しいただければと考えている。1英国の首相のリーダーシップ「もしも私が首相としてふさわしくないのであれば、他の人間を首相にすればいい。私が首相である以上、自分の良いと思う道を進む(ブレア首相)」(「英国大蔵省から見た日本」木原誠二、文春新書、2002)というのが英国首相のリーダーシップである。それは、ジョンソン首相の、コロナウィルスを巡っての、あるいはEU離脱をめぐってのリーダーシップの発揮ぶりからうかがうことが出来る。英国は「首相統治制」と呼ばれることもあるほどで、英国の首相は民間のオーナー社長と同様の強いリーダーシップを発揮している。英国の首相の、リーダーシップの背景には、(1)地位の安定性、(2)選挙で実質的に直接選ばれることからくるカリスマ性、(3)政策形成の主導権、(4)人事権がある。地位の安定性は、英国の首相が、選挙で負けない限りは本人の意思に反して交代させられることが無いことからうかがわれる。労働党・保守党のいずれを問わず、我が国のような3年毎の党首選挙といったものが無いのが英国である。カリスマ性は、英国流の選挙から生み出されている。英国の選挙は、候補者個人にお金のかからない、個人後援会組織が認められない党営選挙である。英国の選挙では、党首が強いリーダーシップをもって決定する党の公約(マニフェスト)以外に候補者個人の公約は存在せず、党の公約がぶつかり合う。そこで、多数を取った党の党首が首相になる。それは、実質的に首相を直接選挙する仕組みとなっており、それが首相のカリスマ性を高めている。英国の首相の日常的な政策形成を支えるシステムとしては、関係閣僚で構成される内閣委員会の制度がある。首相自らの議長による内閣委員会としては、防衛、外交、憲法問題についてのものが、副首相が議長の内閣委員会としては社会問題、環境、地方自治についてのものが、大蔵大臣が議長の内閣委員会としては経済問題、公共支出、雇用についてのものが設けられている。英国の首相の政策面での強力なリーダーシップの背景にあるのが、英国の与党には我が国の政審・総務会のような党独自の政策を議論する機関が存在しないことである。この点は、党内民主主義が重視される我が国の感覚からは、なかなか理解しがたいところであるが、英国では当選1回の議員にも党の部会などでそれなりの発言権があるというようなことはない。英国の首相は、年に一度の党大会で決定される党の基危機対応と財政(1)諸外国のリーダーシップ国家公務員共済組合連合会 理事長 松元 崇 ファイナンス 2020 Jun.15SPOT

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