ファイナンス 2020年6月号 No.655
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て、政策面においても増資交渉の議論をリードした。特に、昨年、日本がG20議長国として取りまとめた質の高いインフラ投資や、国際保健(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、感染症の大流行(パンデミック)への備え・対応)、自然災害に対する強靭性、債務の持続可能性といった分野については、多くの加盟国から重要性が認識され、IDA19の重点政策に位置付けられた。以下では、日本として重点を置いた上記の分野に着目して、IDA19の政策面における主な内容を紹介することとしたい。ア 質の高いインフラ投資途上国の経済発展のためにはインフラの整備が不可欠であるが、持続可能な成長・開発という視点から考えた場合、そうしたインフラ投資は、財政の健全性を確保しつつ、インフラがもたらす経済、環境、社会及び開発面における正のインパクトを最大化し、経済活動の好循環を創出する「質の高い」ものである必要がある。こうした観点から、日本は、「質の高いインフラ投資」を打ち出し、昨年の日本議長下のG20において、インフラ投資におけるライフサイクルコストを考慮したvalue for moneyの実現、環境・社会配慮、自然災害に対する強靭性、透明性、ガバナンス(債務の持続可能性等)などの要素を組み込んだ「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を取りまとめた。同原則は、IDA19の増資合意の中でも引用されており、IDA19の実施を通して、途上国におけるインフラ整備の中で、その考え方が個別プロジェクトに反映されていくことが期待されている。イ 国際保健(UHC・パンデミック)国際保健は、戦後早期に国民皆保険制度を導入し、医療システムを整備してきた日本の経験を役立たせることができる分野であり、国際的な開発支援の場においても、日本が議論をリードしてきた。今般の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、2014年の西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行等*7) 第101回世銀・IMF合同開発委員会における日本国ステートメント(2020年4月17日)で明らかなように、パンデミックに対応するための体制強化や能力構築と、危機への備えにも資する平時からのUHCの確立に取り組むことが、国際社会にとって極めて重要な開発課題となっている。特に、保健システムが脆弱な低所得国においては緊急の対応が必要であり、IDAの資金を活用した支援が求められている。日本としても、新型コロナウイルスの感染拡大等を踏まえ、本年4月の世銀・IMF合同開発委員会において、途上国の感染症への対応を迅速かつ効果的に支援しつつ、途上国自身による感染症の備えの強化を促す画期的なメカニズムとして、「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金」を世界銀行グループと連携して立ち上げるとともに、当面必要な緊急の資金として100百万ドルを拠出することを表明した*7。また、持続可能な保健システムの構築には、財政当局とも連携した保健ファイナンスの強化が重要であり、昨年のG20においては「途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解」が取りまとめられた。この共通理解についても、IDA19の増資合意の中で引用され、低所得国において保健システムを構築する際の指針とされている。ウ 自然災害に対する強靭性(防災)地震や台風をはじめ、大規模な自然災害が発生すると、多くの人命が奪われ、経済にも大きな影響が生じることとなる。そのため、IDA19においても、途上国の開発政策の中で防災が重要課題として位置付けられ、自然災害に対する強靭性(予防・備え)を踏まえた開発計画を策定し、適切に実施することが求められている。この観点から、日本は、国際的な開発支援の議論の中で、インフラのみに限らず、幅広い分野において防災の観点が考慮される「防災の主流化」を推進するとともに、これまでに多くの自然災害を経験し、乗り越えてきた日本の知見を途上国と共有することで、途上国における計画策定等に貢献してきた。12 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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