ファイナンス 2020年6月号 No.655
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IDA増資交渉における議論について紹介したい。2IDAの概要まずは、IDAの概要について見ていきたい。世界銀行グループの中核機関のうち、国際復興開発銀行(IBRD:International Bank for Reconstruction and Development)は、加盟国からの出資金を資本としつつ*4、国際資本市場での債券(世銀債)発行による調達資金を原資として、中所得国などに準商業ベースでの貸付を行っているのに対し、IDAは、加盟国からの出資金を主たる原資として、特に所得水準の低い途上国に非商業ベース(超長期・低金利)での貸付や贈与(グラント)を行っている。IDAが安定的に低所得国に対する支援を行っていくためには、加盟国からの継続的な資金拠出が必要とされることから、IDAでは3年間を1つの期間として資金計画が立てられ、加盟国からの追加拠出の規模や資金の使途等に関する増資交渉が行われることとなっている。昨年12月に交渉が妥結した第19次増資(IDA19)については、2020年7月から2023年6月までの3年間を対象としたものとなっている。IDAの財源は、加盟国からの出資や融資による貢献のほか、過去のIDA融資の返済金などの内部資金、さらにIDA18から導入された市場からの資金調達*5等となっている。こうして集められたIDA資金が、IDA19では74か国の低所得国の開発支援に活用される。IDAによる支援は、使途が定められていない国別配分と、使途が限定されている特別枠に分配されることになり、IDA19では全体の7割強は前者の国別配分に割り当てられる計画となっている。国別配分については、主に、政策・制度環境の良好度(パフォーマンス)に応じて人口1人当たりの資金が手厚く配分されるよう設定されているPBA(Performance-Based Allocation)の計算式に基づき各国に割り当てられる。資金の多くは、超長期(満期38年、うち据置6年)・無利子(手数料0.75%のみ)の融資で低所得国に供与される。ただし、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が行う債務持続可能性の分析で赤信号(債務リスクが*4) IBRDの増資に関する議論については、津田(2018)を参照。*5) IDA18における市場からの資金調達の導入に関する議論については、山下(2017)を参照。*6) 例えば、欧州の主要国などは、紛争・脆弱国(Fragility, Conict & Violence)や気候変動、ジェンダーなどの分野への支援の重要性を主張した。高い)と判定された国に対しては全額をグラントで、黄信号(債務リスクが中程度)と判定された国に対しては50%をグラントで、50%を融資で供与することとされている。なお、所得水準が一定水準に達し、IBRDからも一部借入が可能な国(通称、ブレンド国)に対しては、条件をやや厳格化した融資が行われる。3IDA19増資交渉IDAを巡る3年に1度の増資交渉は、国際的な低所得国支援に係る今後3年間のアジェンダについて合意形成を行うものであり、さらに、その資金規模の大きさからも、国際的な開発支援に与える影響力は非常に大きいものとなっている。そのため、IDA増資交渉は、途上国の開発に携わる関係者にとって最も重要なイベントの一つとなっており、日本が議長国を務めた昨年のG20の首脳宣言においても、IDA19を成功裏に達成することの重要性が言及されていた。IDA19増資交渉は、2019年3月のワシントンDCに於ける第1回交渉会合を皮切りに、アディスアベバ(エチオピア)、ワシントンDCでの交渉会合、その他大小様々な非公式会合等を経て、2019年12月13日にストックホルム(スウェーデン)での最終会合で合意に達した。ここでは、IDA19増資交渉で議論された重点政策と増資規模について見ていきたい。(1) 重点政策(日本議長下のG20における成果の反映)SDGsにおいて17の国際目標が掲げられているように、世界の開発課題は多岐に亘っており、IDAの支援分野も非常に広範なものとなっている。そうした中で、各国ともに、国内への説明も念頭に置きながら、今後3年間のIDAの支援計画において自国の優先課題に出来るだけ多くの資源が配分されるよう、事務局や他の加盟国を巻き込みながら交渉を行っていくこととなる。IDA19においても、どの分野を重点政策とするかについて活発な議論が行われた*6。こうした中で、日本は、IDAの主要ドナー国とし ファイナンス 2020 Jun.11国際開発協会(IDA)第19次増資についてSPOT

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