ファイナンス 2020年6月号 No.655
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1はじめに世界には、貧困から抜け出せていない人々がまだまだ多く存在している*3。こうした状況を直視し、2015年9月の国連サミットでは、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」社会の実現を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、その国際目標の一つとして、2030年までに貧困をなくすことが掲げられている。その目標の達成に向け、途上国の開発支援の分野において主導的な役割を担っているのが*1) IDA増資については、総務(日本は財務大臣)の副官(「IDA-Deputy」)が交渉を行う慣例となっている。日本は有泉秀大臣官房審議官(国際局担当)がIDA-DeputyとしてIDA第19次増資の交渉を担当。*2) 本稿において意見の表明に当たる部分は、筆者個人の見解であり、財務省、日本政府の意見を代表するものではない。また、英語で記された原文の日本語訳は筆者によるものであり、公式の翻訳ではない。*3) 世界銀行は、1日1.9ドルでの暮らしを国際貧困ライン(international poverty line)として設定しており、その水準以下で暮らす人々を「極度の貧困(extreme poverty)」としている。2015年時点で、世界人口の約10%(7.34億人)が1日1.9ドル以下で暮らしていると推計されている。世界銀行グループである。世界銀行グループは、加盟国からの出資をもとに、途上国に対して融資等を行う世界最大の開発金融機関であり、貧困の削減と繁栄の共有の促進という2大目標を掲げ、その達成に向けて、4つの中核機関がそれぞれの役割に応じた支援を実施している。本稿では、世界銀行グループのうち、低所得国支援を担っている国際開発協会(IDA(アイダ):International Development Association)の概要と、昨年行われた国際開発協会(IDA) 第19次増資について*1国際局 開発機関課 課長補佐 影山 昇*2資料1 世界銀行グループの概要1世界銀行グループ途上国における貧困の削減・繁栄の共有の促進を使命とする世界最大の援助機関。世界銀行グループを構成する中核機関は右表の通り。このうち、最も歴史のある(国際復興開発銀行)は、第二次大戦後の年に設立(加盟国数:)。2組織本部:ワシントン総裁:デイビッド・マルパス(米)(年月)3日本と世界銀行の関係日本は年に世界銀行()に加盟。かつては最大の借入国の一つであった。世界銀行からの融資は、東海道新幹線や東名・名神高速道路、黒部第四水力発電等の基幹インフラや、製鉄業等の近代化に活用。現在、日本は、世界銀行グループを構成する各機関において、米国に次ぐ第位の出資国。国際復興開発銀行()○中所得国及び信用力のある低所得国を対象○市場から調達した資金等で長期融資を供与国際開発協会()○低所得国支援に特化○加盟国からの出資金・市場調達資金をもとに、超長期・低利の融資・グラントを供与○年ごとに増資○担当副総裁:西尾昭彦国際金融公社()○市場から調達した資金等で途上国の民間案件に投融資○長官:フィリップ・ル・ウェルー多数国間投資保証機関()○途上国向けの民間投融資に、ポリティカル・リスク保険を供与○長官:俣野弘世界銀行グループの概要10 ファイナンス 2020 Jun.SPOT

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