ファイナンス 2020年5月号 No.654
8/84

産権侵害事犯の検挙事件のうち、暴力団が関与しているものは10.2%(2012年、事件数ベース)で、模倣品・海賊版の販売収益の一部は組織犯罪に利用されている。ICPO(国際刑事警察機構)やWCO(世界税関機構)などの国際機関の報告書では、知的財産侵害物品の販売収益がテロ組織に流入しているとの指摘がなされている。例えば、04年にインターポールが120万ドル分の自動車のブレーキ・パッドを差し押さえたが、レバノンのテロ組織の支援者と関連があったことがわかっている。また、ある国際テロ組織は偽物の香水・シャンプーなどを通じて、模倣品産業と関連していたこともわかっている。このように模倣品・海賊版は権利者だけでなく、多くの分野に悪影響を及ぼすものであることを知っておくべきだろう。最近はインターネットを通じて個人間取引が簡単にできるようになっているが、販売されている商品の中には知的財産を侵害している物品が紛れている可能性がある。それを購入することは権利者に損害を与えるだけでなく、社会に大きな悪影響を及ぼしている。権利者の協力を得て水際で 知的財産侵害物品を食い止めるこうした背景を受け、税関では、「公益の保護」「健康・安全への脅威の未然防止」「犯罪組織への加担防止」を目的として、偽ブランド品などの知的財産侵害物品が輸出入されないよう空港や港などの水際で取締りを行っている(図表2)。その仕組みを簡単に示したのが図表3だ。商品などを輸入する際には通関手続きが必要になるが、一般的な通関手続きでは輸入者が輸入申告を行った後、税関はリスクに応じて審査・検査を行う。「審査・検査」では、申告内容が正しいか、麻薬や拳銃が入っていないか、知的財産が侵害されていないかなどを確認する。「審査・検査」で問題がなければ「納税」「輸入許可」を経て、「貨物引取」と進む。「審査・検査」の段階で知的財産の侵害の疑いがある物品が発見された場合には、「認定手続」を行う。手続きの中で、輸入者や権利者から意見・証拠の提出を受けて、税関が侵害するか否かの判断を行い、侵害認定された貨物に関しては没収し廃棄することになる。また、権利者からの差止申立ても受け付けている。ブランド品などの権利侵害商品は年々模倣手口が巧妙化しており、税関でも判断が難しいケースも多い。権利者から権利の内容や侵害品の識別方法などの情報提供を受けることによって、よりスムーズに認定手続きができる。税関では、いわゆる偽ブランド品などの商標権を侵害する物品のほか、特許権、意匠権や著作権等の知的財産(図表4)を侵害する物品の取り締まりを行っている。直近の取締実績を6ページ目以降で紹介したい。税関で差止められた 医薬品(左写真)や 抱っこひも(下写真中央)の模倣品図表2 知的財産侵害物品取締りの目的1公益の保護正当な経済活動を保護する必要がある。2健康・安全への 脅威の未然防止医薬品をはじめ、健康や安全を脅かす危険性のあるものの差止めが必要。3組織犯罪への 加担の防止知的財産侵害物品の販売収益がテロ組織に流入していると指摘されている。4 ファイナンス 2020 May.

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る