ファイナンス 2020年5月号 No.654
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コラム 経済トレンド71大臣官房総合政策課 調査員 杉山 渉/葭中 孝/尼崎 謙/田村 怜貯蓄率の再上昇と展望本稿では、2015年より再度増勢に転じた貯蓄率について、主に勤労世帯の収入・支出の動向から考察を行った。家計金融資産の全体感・家計金融資産は2018年末には1,843兆円と、1997年末と比較して558兆円増加している。内訳をみると、現預金の占める割合はやや低下しているものの、依然として最も大きい割合を占める。また、株価の上昇等を背景に、足もとでは有価証券の割合が拡大している(図表1、2)。・金融資産で最もシェアの大きい資産は預貯金であるが、その動向を貯蓄率の推移で確認すると、1994年以降右肩下がりに低減し、2014年に一旦マイナス(支出が所得を上回る)となったものの、翌年以降に再度プラスに転じた動きが確認される(図表3)。(図表1)家計金融資産推移2,0001,5001,000500019971999200120032005200720092011201320152017(兆円)現預金有価証券保険年金等その他(図表2)家計金融資産 内訳変化現預金54.1%保険年金等26.8%有価証券8.7%その他10.4%現預金53.5%保険年金等28.5%有価証券13.7%その他4.3%2018年1997年(図表3)貯蓄率14121086420-2350300250200150100500▲501994199619982000200220042006200820102012201420162018(%)(兆円)貯蓄額可処分所得貯蓄率(注)貯蓄率=貯蓄÷(可処分所得+年金受給権の変動調整(受取))(注)家計金融資産とは、家計が所持する現金、および企業から現金や現金以外の金融資産を受けとれる契約上の権利を指す。(出典)日本銀行「資金循環統計」、内閣府「国民経済計算」収入の変遷(1)・家計の収入と支出の推移を見ると、2000年代においては、デフレやリーマンショック時の労働者減少などを反映して可処分所得が伸び悩み、消費支出が増加したことで支出が所得を上回って推移してきた。近年では、可処分所得が増加に転じており、所得の伸びが支出の伸びを上回っている(図表4)。・収入面について、近年の所得の種類別の推移をみると、雇用者報酬がリーマンショック以降は増加しており、足もとでは高い水準で推移している一方、自営業者の収入等を含む混合所得、利子・配当等の財産所得が伸び悩んでいるため(図表5)、可処分所得の合計額は、1994年当時より低い水準となっている。・所得のうち預貯金から得られる利子所得は低下基調にあり、金融緩和などを通じた低金利環境が長期化していること等が背景にある。一方、財産所得の中でも、配当所得は上昇傾向にあるが、これは主に企業の配当性向が高まっていることが要因となっていると考えられる(図表6)。(図表4)所得・支出対比320310300290280270260250240(兆円)1994199619982000200220042006200820102012201420162018(注1)可処分所得+非消費支出=収入(注2)非消費支出=経常税+社会負担+その他の経常移転可処分所得家計最終消費支出(図表5)種類別所得推移4003002001000(兆円)1994199619982000200220042006200820102012201420162018358349231241所得計財産所得雇用者報酬混合所得(図表6)利子・配当推移302520151050(兆円)1994199619982000200220042006200820102012201420162018配当受取利子(FISIM調整前)(出典)内閣府「国民経済計算」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」62 ファイナンス 2020 May.連載経済 トレンド

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