ファイナンス 2020年5月号 No.654
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IESの推計値について、同様の中長期にわたる上昇トレンドが他の先行研究にも見られるのかを確かめるため、本稿では以下の検証を行った。まず、サンプル期間を79年以前、80~96年、97年以降に3分割し、次に残る23論文中で採用されたデータが各期間を推計対象に含むか否かで割り当てを行い、最後に各々の期間についてのIESの平均値を算出した(表4)*18。その結果、IESは79年以前から80~96年にかけて一旦減少し(2.32→1.77)、その後80~96年から97年以降にかけて微増している(1.77→1.85)。すなわちHo(2004)の指摘する1980年を境にした増加は確認できなかったものの、Yamamoto(2013)の主張する金融ビッグバン後の増加とは一応整合的な結果となっている。ただし、サンプルの標準偏差が3期間とも2以上と比較的大きいため、解釈には十分な注意が必要である*19。また、図2においては、表4の結果のもととなる各推計値の度数分布を表示している。比較的重複の少ない1979年以前のサンプル(左図)と97年以後のサンプル(右図)を比較すると、後者において0以下と2以上の外れ値と考えられる推計値が減少していることが分かる。こうした外れ値の減少は、第2節でも触れた推計手法の発展がその1つの要因と考えられるが、より詳細な要因分析が今後も求められる。総括すると、IES値の変化については近年若干の増加傾向は見られるが、それを裏付けるためにはさらなる学術研究および発見の積み上げが必要だと言える。*18) 例えば1975~1985年をサンプル期間とする推計値は「79年以前」と「80~96年」の2期間にわたって平均値が採用されることとなる。なお2年未満の期間が設定期間に含まれる場合は対象外とした。*19) なお、別の検証方法としてサンプル期間の平均年に着目し論文を期間ごとに割り振る方法が考えられる。ただその場合、1996年以後を平均年とする論文が3つに限定されてしまうため(うち1論文は平均年がボーダーライン上の1997年)今回は採用しなかった。4.結語本稿は消費の異時点間代替弾力性(IES)についての概念整理を行った上で、日本における推計値を公刊済の25論文を使ってサーベイした。その結果、(1)日本のIESは他国比で格別高いとは言えないこと、(2)近年若干の上昇傾向が見られることの2点が判明した。(2)はYamamoto(2013)の発見と整合的だが、(1)はHavranek et al.(2015)とは異なる結果となった。いずれの点についても、当該トピックに関するさらなる研究を通じて知見が深まっていくことが今後期待される。表3 日本におけるIES推計値の時系列比較:論文別Ho(2004)Yamamoto(2013)サンプル期間1961Q1-1980Q41981Q1-1999Q41980Q1-1997Q21997Q3-2007Q4平均0.661.080.313.57標準偏差0.120.340.040.4495%信頼区間[0.52, 0.89][0.78, 1.26][0.24, 0.39][2.70, 4.44]四半期数80767042表4 日本におけるIES推計値の時系列比較:集計分1979年以前を含む1980~96年を含む1997年以降を含む平均2.321.771.85中央値0.630.640.92最大値9.819.819.81最小値-0.12-0.12-0.04標準偏差3.332.632.81サンプル数132212注記:本表における母集団はHo(2004)およびYamamoto(2012)を除く23論文である。図2 日本におけるIES推計値の時系列比較:度数分布図2日本におけるIES推計値の時系列比較:度数分布注記: 縦軸は論文数を表している。左図(a)は1979年以前のデータ、右図(b)は1997年以降のデータをサンプル期間に含む論文を採用している(ただし2年未満のデータは期間に含まないものとする)。 332140123450以下〜0.5〜1〜22以上推計値年以前を含む132420123450以下〜0.5〜1〜22以上推計値年以降を含む注記:縦軸は論文数を表している。左図(a)は1979年以前のデータ、右図(b)は1997年以降のデータをサンプル期間に含む論文を採用している(ただし2年未満のデータは期間に含まないものとする)。 ファイナンス 2020 May.57シリーズ 日本経済を考える 100連載日本経済を 考える

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