ファイナンス 2020年5月号 No.654
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のである。表中に「ベース」とあるものは、論文が最も重要だとみなす値(複数可)の単純平均である。一方、「全推計値」については、言葉の示す通り日本に関する全ての推計値の単純平均を算出した。表から明らかな通り、推計値のほとんどは正値であるため、前述の理論と整合的な結果となっている。全推計値の単純平均は1.38であり、Havranek et al.(2015)が算出する平均値(0.89)を若干上回る。さらにベース値に対象を絞ると単純平均は1.69へと上昇する。3.3 他国との比較ある国のIESの推計値が他国と異なることには複数の要因が考えられる。そのうち有力なものは、金融市場が未整備であることや、家計の多くが借り入れ制約に直面していることなどから、IESの値が低く抑えられる場合である(Jappelli and Pagano, 1989;Campbell and Mankiw, 1991)。また、社会保障が他国と比べて手薄である場合、負債を持つことに対する社会的なマイナスイメージが強い場合なども、IESの推計値が他国より低くなる要因になると考えられる。*15) 比較対象国を選出するに際してはHavranek et al.(2015)において比較的サンプル数が多く存在するかどうかも考慮した。今回取り上げた論文のうち、日本と日本以外の国のIESの値を同時に推計しているものが複数あった。ここでは、それらのうち、欧米主要国である米国、イギリス、カナダおよびフランスの4カ国を網羅する8論文を取り上げて、同一論文内での各国のIESの推計値を比較する*15。このように同一論文の推計値を用いて国際比較をすることにより、採択される推計アプローチの違いによって生じる推計値の差をコントロールした上で、各国のIESの推計値が異なる要因を考察することが可能となる。なお、それぞれの論文における各国のIES値には前述の「ベース値」を採用した。表2は8論文の推計値の平均を国ごとに算出してい表1 抽出サンプルIES:ベース値IES:全推計値サンプル期間(年ベース)ソース金子(1991)0.64(4)0.64(4)1974-1984筆者による抽出Campbell and Mankiw(1991)-0.02(1)-0.11(2)1970-1988Havranek et al.(2015)Osano and Inoue(1991)6.27(2)3.94(5)1965-1985Havranek et al.(2015)Koedijk and Smant(1994)0.15(1)0.24(3)1971-1989Havranek et al.(2015)Hamori(1996)1.28(2)1.28(2)1955-1993Havranek et al.(2015)Ogaki et al.(1996)0.63(1)0.63(1)1968-1992Havranek et al.(2015)Chyi and Huang(1997)-0.12(1)-0.12(1)1965-1990Havranek et al.(2015)Hamori(1998)1.67(4)1.51(8)1980-1992筆者による抽出Rodriguez et al.(2002)0.16(1)0.17(2)1970-1996Havranek et al.(2015)Sarantis and Stewart(2003)0.18(1)0.18(1)1960-1994Havranek et al.(2015)Yogo(2004)-0.04(3)-0.45(16)1970-1998Havranek et al.(2015)Fuse(2004)4.76(1)4.24(4)1970-1998Havranek et al.(2015)Ho(2004)0.87(2)0.87(2)1961-19801981-1999Havranek et al.(2015)Pagano(2004)9.91(1)3.42(2)1970-1999Havranek et al.(2015)Bosca et al.(2006)6.49(2)6.49(2)1970-1995Havranek et al.(2015)Nieh and Ho(2006)1.54(2)1.54(2)1981-2000Havranek et al.(2015)Jimenez-Martin and deFrutos(2009)0.66(1)0.66(1)1986-1998Havranek et al.(2015)Noda and Sugiyama(2010)0.33(1)-0.06(18)1980-2008Havranek et al.(2015)Sakuragawa and Hosono(2010)1.50(1)1.50(1)1981-2005Havranek et al.(2015)Okubo(2011)0.33(5)0.71(20)1980-2004Havranek et al.(2015)Ito and Noda(2012)1.18(3)1.25(5)1980-2009Havranek et al.(2015)Kim and Ryou(2012)1.35(1)3.67(2)1981-2010Havranek et al.(2015)Yamamoto(2012)1.94(2)1.54(8)1980-19971997-2007筆者による抽出Cashin and Unayama(2016b)0.21(1)0.27(5)1992-2002筆者による抽出Cashin and Unayama(2016a)0.53(1)0.39(3)2008-2015筆者による抽出平均値1.69(1.8)1.38(4.8)注記:カッコ内の数字はサンプル数を示す。Ho(2004)およびYamamoto(2012)の値は異なる期間の推計値を含む。表2 IES推計値の各国比較:集計分日本米国イギリスカナダフランス本稿サンプル推計値ごとの平均1.42(12)1.47(12)0.86(12)-0.27(11)-0.01(11)論文ごとの平均 1.09(8)1.20(8)0.73(8)0.53(8)0.37(8)(参考)Havranek et al.(2015)における推計値ごとの平均0.89(109)0.59(1429)0.49(251)0.39(91)-0.03(44)注記:カッコ内の数字はサンプル数を示す。Havranek et al.(2015)の結果は論文中の表A1より抜粋。 ファイナンス 2020 May.55シリーズ 日本経済を考える 100連載日本経済を 考える

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