ファイナンス 2020年5月号 No.654
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評者渡部 晶柳 与志夫 著デジタルアーカイブの理論と政策~デジタル文化資源の活用に向けて勁草書房 2020年1月 定価 本体3,000円+税本書は、デジタルアーカイブ学会の事務局をその講座(DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座)で引き受けている、東京大学大学院情報学環特任教授(図書館経営論、文化情報資源政策論)の柳与志夫氏が、デジタルアーカイブ構築・利用のための基本的考え方と、今後の政策形成の方向性を論じたもので、これを論じた初めての本格的理論書と銘打たれる。柳氏の「文化情報資源と図書館経営」(勁草書房 2015年2月)については、本誌2016年4月号の当欄で紹介した。その最終章(第14章)は、「図書館経営論から文化情報資源政策論へ」であり、我が国の図書館と図書館情報学が停滞の中にあり、文化情報資源という大きな文脈で、その価値を再生できるとしていた。その後の実践活動や考察の軌跡をたどれる。本書の題名に出てくる「デジタルアーカイブ」であるが、まず、もともとは、月尾嘉男氏が提案した和製英語だったという。本書第8章に紹介されている「デジタルアーカイブ整備推進法案(仮称)骨子案」(衆議院法制局)(2018年5月に超党派からなるデジタル文化資産推進議員連盟総会で示されたもの)では、「知的財産データを含む情報の集合物であって、特定の知的財産データを電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したもの」と定義されている。さらに、「知的財産データ」とは、「電磁的記録に記録された知的財産に関する情報であって、歴史上、芸術上、学術上、鑑賞上又は産業上価値のあるもの」である。また、本書の副題になっている「文化資源」とは、広義には「文化的・社会的活動によって生じた成果物(モノ、人材、制度、情報・知識)を保存・組織化し、公共的に再利用可能とした資源」であり、本書では、「情報資源」としての側面を強調している。そして、「情報資源」とは、「情報が、(1)組織化(あるルールによる秩序化)されている、(2)何らかのメディアに定着されている(電子化を含む物質化)、(3)原則、誰にでも利用できる(一般公開かメンバー限定か、有料か無料か、は問わない)、(4)資源化を担う個人または組織が存在する(価値化の保障)、(5)ある程度の恒常性を保障する仕組みとそれに基づく信頼性がある(安定性)、(6)それを利用して新たな価値を創造することができる(再資源化)、の六要件を満たしていることを意味する、という(本書「補論」より)。本書の構成は、三部構成になっており、第Ⅰ部 「デジタル文化資源」の発見(第一章 我が国における文化・知的情報資源政策形成に向けての基礎的考察、第二章 デジタル文化資源構築の意義、第三章 デジタル文化資源の可能性)、第Ⅱ部 電子書籍/電子図書館からデジタルアーカイブへ(第四章 我が国の電子書籍流通における出版界の動向と政府の役割―現状と今後の課題、第五章 電子書籍と公共図書館―デジタルアーカイブという可能性、第六章 デジタルライブラリー論再考―その系譜と文脈、補論 対概念の関係について)、第Ⅲ部 デジタルアーカイブの理論化と政策化に向けて(第七章 デジタルアーカイブとは何かーその要件を考える、第八章 公共政策としてのデジタルアーカイブ)である。各部の冒頭に、「まえがき」がおかれ、各章について著者の狙いなどが簡潔に記される。第Ⅰ部第一章の初出は2003年だが、EUの文化情報資源政策を分析して、わが国のこれからの同政策の課題を抽出することを目的としたものだ。いまだに、当時の課題のほとんどが残されているという指摘にはびっくりさせられる。第二章・第三章では、デジタルアーカイブの核となるデジタル文化資源の特性と活用が論じられている。第Ⅱ部は、電子書籍や電子図書館が歴史的にどのようにデジタルアーカイブに関係しているのか・してい42 ファイナンス 2020 May.FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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