ファイナンス 2020年5月号 No.654
45/84

既存の事業を不要だとは言いにくい現状を打開する意味で、市民が指摘する仕組みは一考の価値がある。拡大・深化する市民参加を活かすために、行政自身が市民の声をよりストレートに聴くよう変わるべきである。市民の提案を市民目線で受け止め、具体的な事業に落とし込む過程は、職員に良い刺激を与え、政策立案・実行能力の向上に繋がる*29。市民の意見は行政にとって耳の痛い話が多く、それを正面から受け止めることは容易ではないが、真摯に向き合う姿勢が必要である。*29) 財政課は、内部での管理、調整の事務が業務の大半を占めるため、市民との直接的な関わりが少ない部署と言わざるを得ない。しかし、今回の取組を通じて、応募の相談や予算の在り方に関する叱咤激励の声が多数寄せられた。これは、職員に良い刺激をもたらす経験となった。(参考文献)・西尾隆(2016)『現代の行政と公共政策』、放送大学教育振興会・ 兼村高文・洪萬(2012)「住民参加型予算の現状と今後─日韓の事例を中心に─」、『自治総研』通巻405号・ 兼村高文(2016)『市民参加の新展開:世界で広がる市民参加予算の取組み』、イマジン出版・ 山口まみ(2016)「パリ市における市民参加型予算」『Best Value』vol.34 Theme 8・ Paris Budget Participatif(https://budgetparticipatif.paris.fr/bp/)・ Orçamento Participativo Portugal(https://opp.gov.pt/)「みんなでつくる避難所プロジェクト」を提案した石田礼子さんから、参加者の視点で感想を頂いた。「みんつく予算」で理想の三重県に近づけよう石田礼子「みんつく予算」で2つの投票候補事業を提案しました。介護職場の魅力をリアルに発信する「みえのささえびと」事業は採択に至りませんでしたが、避難所を身近な存在にしたいという思いから提案した「みんなでつくる避難所プロジェクト」は最多得票を頂戴しました。私は、三重県の自宅からフルリモートワークでソーシャル経済メディアであるNewsPicksの仕事をしながら、地元・津市の(株)中部システムセンターにて働き方改革のサポートの副業もしています。個人ではリモートワークやパラレルワークなど新しい働き方の実践者を集めたコミュニティを運営しています。初めて「みんつく予算」を知った時、私自身が応募するだけでなく、県内外から多くの方に応募してもらいたいと思いました。沢山のアイデアを集めることで真に三重県に必要な予算ができると考え、「みんつく予算」に応募するアイデアについてみんなで話し合うワークショップを企画しました。具体的には、Facebookでイベントページを立ち上げ、三重県内外から三重を変えたい、地方を面白くしたいと思っている方々に呼びかけました。当日(10月1日)は、愛知県のクリエイティブデザイナー、NPOの運営者、女性起業家をサポートする社労士、東京から移住したライター、IT関連の起業家、農業研究者、子育て中の女性、研修を全国で行う講師など様々なバックグラウンドをお持ちの20名ほどの方が副業先のコワーキングスペースに集まりました。まず、富永課長から「みんつく予算」の説明を受けると、こう運営を改善したら多くの応募が集まるのでは、などのアイデアが参加者から集まりました。その後、募集中のテーマについてそれぞれ考えてきたアイデアを発表し合い、他の参加者がフィードバックを行いました。参加者同士で理想の三重県の姿について話が盛り上がる場面もありました。ワークショップが終わった後も、参加者がSNS上でアイデアを更に醸成しつつ、「みんつく予算」について投稿を行うことで、この取組自体を広めることにも繋がりました。投票も、それぞれが行うだけでなく、県民への呼びかけを行い、参加者一人一人がいわばインフルエンサーのような役割を自然と担っていきました。参加型予算は、誰もが自分事として地元が抱える課題を考えられる点が非常に魅力的です。自分の住む街をより良くしたいと多くの人が願っていますが、実際にそのために行動できる人はそれほど多くないのが現状です。「みんつく予算」は、熱意で理想の三重県の姿に近づける機会だと思いました。採択された事業が成功すること、そして、今後も「みんつく予算」が実施されることを期待しています。ワークショップの模様(場所:中部システムセンターWORKSPACE)石田さんの提案に添えられた避難所のイメージイラスト ファイナンス 2020 May.41三重県庁の参加型予算「みんつく予算」の取組について SPOT

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る