ファイナンス 2020年5月号 No.654
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場として有意義なイベントとなった*24。投票の呼びかけは、職員による宣伝だけでは限界がある中で、提案者を中心とする広がりが見られた。「みんつく予算総選挙」のチラシ(写真2)のデザイン作成など、運営面でのボランティア的協力も頂いた*25。(4)投票結果:2020年度予算への計上投票者数2,837人、投票総数6,381票の結果*26を踏まえ、投票数の多い順に上位6事業(総額5,020万4千円)を2020年度当初予算に計上した(図表4)。市民目線のユニークな6事業が選定されたが、その効果的な執行には、パリ市のような市民による進捗状況のフォローが必要である。継続した情報公開は、次の市民参加を促し、提案の質を向上させる。また、採択に至らなかった14事業、投票候補案とならなかった提案、投票期間中に寄せられた意見など多くのアイデアを県庁は得ている。これらを無駄にせず、行政運営に取り込むことも求められる*27。6次回の「みんつく予算」に向けて(1)市民参加の拡大・深化多くの提案(229件)及び投票(2,837人)の獲得は成果であるが、三重県人口(178万人)を考えれば、市民参加の絶対数を伸ばす必要がある。また、参加型民主主義で大事となる市民相互の交流・対話の機会*24) 鈴木知事から「提案者と職員が一緒に説明するのは画期的であり、職員も普段より自信を持って説明ができていた。職員に良い刺激を与えてもらった。」との好意的な評価があった。*25) 県庁ウェブサイトの見づらさが課題となっていたところ、事業内容を一覧できる「みんつく予算総選挙」の応援ウェブサイトを構築した方もいる。*26) 投票結果は知事査定の冒頭(1月16日)で発表したが、その際、投票時に受け付けた事業への意見(613個)も併せて公表した。*27) 投票で次点(406票)となった「三重県ペット防災事業」(啓発アニメの制作、ペット参加型避難訓練の実施)には、アイデアを活かして既存の施策の改善に繋げて欲しいとの声が結果発表後も多く寄せられた。*28) 既存の電子申請システムを活用した応募フォームの使いにくさの問題があったことも一因である。同フォームではファイルの添付ができない中、紙媒体での提案の中には、写真やイラストを活かしたものもあった。ただし、紙媒体での提案・投票は、回収・集計の手間など職員の負担が大きい。が、実際に集まる場と、それを補完するデジタルプラットフォームで提供されることが必要だ。今回、デジタル手法(インターネット)を中心に置きつつ、アナログ手法(対面、紙媒体)も併用したが、両者の特徴を活かした改善が求められる。アナログ手法は場所と時間の確保など手間暇がかかる分、参加の質・量への貢献は大きかった。ワークショップ開催が提案のブラッシュアップに役立ったほか、紙媒体での提案・投票*28の数も想定より多かった。シビックテックの流れの一環として、近年の参加型予算の世界的普及で大きな役割を果たしたデジタル手法の活用は不可欠である。パリ市のように、提案と投票だけでなく、アイデアの議論、事業のフォローアップまでワンストップでできるデジタル基盤の整備が望ましい。(2)市民参加を活かす行政への変化今回、事業提案を20テーマに限ったことに対し、自由な提案を認めて欲しい旨やテーマの幅を広げて欲しい旨の意見が多数寄せられた。自由度を広げた制度設計が望ましいが、その場合、県庁での審査・具体化・実行が難化する懸念がある。また、実施すべき事業ではなく、廃止すべき事業を選ぶ仕組み(「みんやめ予算」)を求める意見もあった。事業の背景には多くの利害が関わるため、投票結果だけで事業の廃止を決めることは難しいが、行政が図表4 予算に計上された上位6事業の投票結果事業名(予算額)事業内容提案者投票数寄せられた意見1みんなでつくる避難所プロジェクト(990万円)過ごしやすい避難所を目指し、避難所グッズや避難所体験ゲームの開発、防災レシピ教室の開催を行う。石田礼子さん739票・避難所生活の具体的イメージを県民が持てるようになる。2映画で知ろう!「みえで活躍する外国人住民」(980万円)県内で活躍する外国人住民を紹介するドキュメンタリー映画を当事者である外国人住民とともに製作する。山根一枝さん687票・沢山の外国人が周りに住む時代であるから、共生のために必要。3県民参加・体験型食品ロスゼロ啓発プロジェクト(736万円)食品ロス削減をテーマにしたイベントを、県民、行政、企業、フードバンク団体など多様な主体で開催する。後藤加奈子さん511票・日本は店頭に並ぶ食品の約半数は廃棄されるという現状に、愕然とした。4子どもたちのインターネットトラブル防止事業(1,000万円)SNS上のトラブルを投稿できるアプリの開発や大学生等の協力を得てSNSパトロールや啓発講座を行う。大津かすみさん501票・子供たちがインターネットやSNSでトラブルに巻き込まれる事件が多く、恐ろしく感じている。5これからの移動手段チャレンジ(574万円)グリーンスローモビリティなど高齢者向けモビリティ・マネジメントに関するセミナーや試乗会を開催する。高山功平さん479票・父が免許返納。社会全体でより手厚くフォロー出来るスキーム構築の議論をしてほしい。6みえの宝!子ども見守り活動応援プロジェクト(741万円)青色回転灯装備車両(青パト)で見守り活動に従事する防犯ボランティアにドライブレコーダー等を貸与する。西保則さん458票・子どもたちを見守って頂く、ボランティアさんの存在は大変ありがたい。40 ファイナンス 2020 May.SPOT

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