ファイナンス 2020年5月号 No.654
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4三重県「みんつく予算」の概要(1)目的市民参加の視点を予算編成に取り入れてきた*13三重県庁にとって、更なる挑戦となる「みんつく予算」の主な実施目的は、次の2点である。・事業の構築に新たな発想や身近な問題意識を取り入れることで事業の質の向上や限られた資源の有効活用を図ること・予算の使い道について県民の理解、共感及び納得性を高めながら県政への参画を促すことまた、職員を良い意味で刺激し、行政の在り方に前向きな変化を引き起こすことも狙いである*14。(2)規模総額を約5千万円、1事業を1千万円以内と定め、総額の中で複数の事業を選定し、毎年2月に県議会に提出される当初予算案に盛り込むこととした。5千万円という規模は、2020年度三重県一般会計当初予算7,407億円の0.01%に満たない。しかし、新規性の高い事業の計上は限定的であること*15を踏まえれば、インパクトのある規模であろう。(3)参加プロセス市民参加の機会を「A.事業提案の募集」と「D.県民投票による事業決定」の2点で設けた(図表3)。提案への応募は、独自のアイデアをまとめる必要があり、参加へのハードルが比較的高い。より参加しやすい形態である投票プロセスを取り入れることで、多くの人が参加できる仕組みとした。募集と投票の間に行う「B.投票候補案の審査」と「C.具体的な事業内容の構築」を県庁が担う。そのまま実行に移せる詳細な計画の形で提案を受ける訳ではないため、事業の実行主体となる行政の観点で提案*13) 知事査定のインターネットでの公開など予算編成過程の透明性を高めてきたほか、県民の声を反映した行政サービスを提供するため、毎年、県民1万人を対象とする「みえ県民意識調査」を実施し、予算編成の参考としている。*14) 鈴木知事は「県庁の中で、お金がないからどうせ新しいことを言ってもみたいな、思考が止まっているところも見受けられたから、そういうものを打破する意味でも、新しい発想で提案して欲しい」と説明している。(2019年9月20日知事定例記者会見)*15) 厳しい財政状況の継続により、近年の予算要求基準では、政策的なソフト事業に充てられる一般財源は約30億円、このうち、重点事業(特定課題推進枠)に充てられる一般財源は約3億円となっている。*16) 防災、子ども・若者、高齢者、環境、ダイバーシティ、三重の魅力発信などの分野から、各部局からの推薦も踏まえ、県政の重要課題である20のテーマを設定した。具体的には、「避難行動の促進」、「男性育児参画」、「モビリティ・マネジメント」、「食品ロスの削減」、「多文化共生の理解促進」、「三重の農林水産品の魅力向上」など。*17) 設定したテーマを所管する担当課が明確となることで、集まった提案の担当部局への割り当ては混乱なく行われた。投票候補案の審査・具体化は、提案と投票の間の限られた期間(10月下旬~11中旬)に行わなければならなかったが、事前のテーマ設定により審査の観点も準備できたため、円滑に進んだ。*18) 県内29市町、国の地方機関、関係団体、事業者、ボランティア等への周知、県庁主催のイベント等でのチラシ配布など。*19) 財政課長名で公式ツイッターを開設し、みんつく予算の宣伝をしつつ、予算編成の過程など財政課の仕事を紹介した。現在、約600フォロワー。内容を審査した上で、予算やスケジュールを含め事業を具体的に組み立てる担当部局の役割は大きい。提案を募集する対象について、20のテーマ*16を設定した。参加のハードルを下げることを目的としたが、運営上の混乱を少なくする効果*17もあった。他方で、提案者側から見れば、テーマの限定により出したい提案が自由に出せない、県庁にとって都合の良いテーマだけが選ばれている、という批判があった。多くの市民の参加のため、メディアを通じて訴えることは勿論、より直接に市民に訴える取組*18を続け、知名度の向上を図った。また、職員個人のフェイスブックの利用や専用ツイッター*19の開設により、SNS上の拡散を狙ったものの、アカウントのフォロワー数が少なく、発信力は限定的であった。(写真1)提案者によるプレゼンテーションの模様(後藤さん)図表3 「みんつく予算」スケジュール2019年4月~6月参加型予算の実施方法の検討7月~8月募集テーマの調整9月20日~10月18日A.「事業提案の募集」<市民参加>10月下旬~11月中旬B.投票候補案の審査 <県庁>C.具体的な事業内容の構築 <県庁>12月7日~2020年1月6日12月12日D.「県民投票による事業決定」<市民参加>  提案者によるプレゼンテーション2020年1月16日投票結果の発表(知事査定冒頭)2月12日2020年度当初予算案発表38 ファイナンス 2020 May.SPOT

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